佐野元春を語るVol.2

次の文章は、恥ずかしながらワタクシのものです。これまた、ニフティのFBEATにて、アップしたものをちょっと手直ししてます。『The Barn』と『Stones and Eggs』というアプローチの違った二枚のアルバムについて、かなり深読みして書いたもの。なお、参考文献として、「路上のイノセンス」(下村誠著)、「佐野元春語録」(城山隆編)、その他長年情報として読みあさってきた、記事などからインスパイアされて出来上がったものといっていいでしょう。というわけで、全責任はヒョウタンツギが負いますが、かなり想像の入ったものですので、ご注意下さい。なお、違った部分については、修正は加えず、追加したいと思います。けっこう思い入れあるんだ、これに。

そう、俺は君からはみ出している  Text By ヒョウタンツギ

このシングル、「だいじょうぶ、と彼女は言った/No suprise at all-驚くに値しない」とアルバム、『Stones and Eggs』は、前作、『The Barn』のように、「佐野元春 & The Hobo King Band」名義ではありません。トラックのほとんどで、佐野元春は、ギターおよびキーボード、プログラミングまで担当して、バンドのメンバーはまるでスタジオミュージシャンのように、使われているような感じです。では、この企画が佐野元春にとって非常にパーソナルなものなのかというと、実は『The Barn』の方がパーソナルな位置づけなのではないかと最近では解釈するようになりました。
というのも、その前作『Fruits』発表後に、最愛の妹をかなり悲惨な状況で亡くしているのですね。90年代に入ってからというもの、元春は父、母と相次いで亡くしていまして、おそらくこの時が一番精神的にダウナーな方向にあったと思います。まあ、肉親の不幸のことは知っていたのですが、つい最近両親の生まれた年を知りまして愕然としました。うちの父親よりも若いんですよ。また、妹も元春とは年が離れていて、かなりの若さでした。これは誰でもまいると思います。
そんな状況の中、レコーディングに取りかかるには、あまりにもひとりの力では足りないと判断したのではないでしょうか。で、全面的にThe Hobo King Bandのサポートを引き出すために、彼らの得意な「カントリー」テイストでアプローチし、ジョン・サイモンのプロデュースをお願いすることになったと推測しました。従って、アルバムクレジットも、佐野元春 and The Hobo King Band名義。<どうだ、わかったか、木村太郎(註)。ちなみに、『The Barn』収録の「どこにでもいる娘」「Doctor」は、妹に捧げられています。
それからようやく立ち直った元春は、本当にやりたかったものに挑戦しだした。それが今度の『Stones and Eggs』なのではないでしょうか。こちらは、パーソナルというよりも、革新的なアプローチだと思います。
都市生活者のライフスタイルも、「ロックンロール」なのだということをはじめて認識させた、デビュー三部作(もちろん、ビートの中にできるだけたくさんのいいたいことをマシンガンのように詰め込んだ誰にも真似できないスタイルでした)。日本ではじめてラップやヒップホップの手法を取り入れた『Visitors』。できるだけ外来語を排除してポップな方向性を見いだした『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』。これらの作品群に匹敵する野心的な作品かもしれませんよ。
近頃のミュージックシーンって、元春が登場してきた頃とは違って、誰もがとんがってきたんですね。決して元春が丸くなったのではないのです。
また、現在のミュージックシーンの流れから距離を置いているスタンスだとも書きましたが、これはもともと、佐野元春という人の心情とも一致すると思うのです。もう、誰にも追随しないし、枠にとらわれたくない。『俺は君からはみ出している』のです。(『』内「ブルーの見解」佐野元春作詞から引用しました)
佐野元春のデビューは、あまりに時代の先を行っていて、セールスに反映しなかった。それが時代が彼に追いついてきて、アルバム『Someday』と「Rock'n Roll Nightツアー」で頂点を極めるかに見えた。
その後、彼のやり方がフォロワーを生むに従い、すべてをなげうって、ニューヨークに生活し、ラップとヒップホップを手みやげに凱旋。
もう、これはとんがっていたのではなくて、はみ出していたとも解釈できましょう。
この間のレスから、ほとんど毎日のようにアルバムを聴き返しています。それこそ1回目では、いまいちぴんとこなかったのですが、最近では「をを、いい流れじゃん」という感じ。
これを名うてのメンバーのバンドでライヴを楽しめるのですから、ワクワクしますねえ。
ただ、これだけは書いておきたい。
ラストの「GO4 Impact」、Dragon Ashとのコラボレーションですけど、冒頭の「GO4」つまり佐野自身でやった曲も甲乙つけがたい。個人的には、ラストナンバーは別の曲と差し替えとか、ショートヴァージョンでもよかったと思います。
あと、「No surprise at all-驚くに値しない」は、シングルヴァージョンの方がメリハリあっていいなあ。

脚註:木村太郎
『The Barn』発表後、CX系の自分の番組で元春を追ったインタビューとベアズビルスタジオでの映像を使ったドキュメントで、CM前に、「なんで今頃、ウッドストック(レコーディング)なんでしょうねえ」とかましてくれた事件。こいつには、John SimonやJohn Sebastian、Garth Hudsonといった面々の存在がわからなかったらしい。知らなきゃ、黙っているか、もう少し気の利いたコメントで締めてもらいたかった。

信頼と依存を取り違えてはならない

再会〜佐野元春の話をしよう

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