Cozy/山下達郎

Cozy

01 氷のマニキュア(松本隆/山下達郎/山下達郎・Mark Suozzo・Jimmy Biondolillo)
02 ヘロン(山下達郎/山下達郎/山下達郎)
03 Fragile(Alan O'day/山下達郎/山下達郎)
04 ドーナツ・ソング(山下達郎/山下達郎/山下達郎)
05 月の光(松本隆/山下達郎/山下達郎)
06 群青の炎-Ultramarine Fire-(山下達郎/山下達郎/山下達郎)
07 Boomerang Baby(弾厚作/弾厚作/山下達郎)
08 夏のCollage(山下達郎/山下達郎/山下達郎)
09 Lai-La-邂逅-(山下達郎/山下達郎/山下達郎)
10 Stand In The Light-愛の灯-<'98 remix>(Melissa Manchester/山下達郎/山下達郎)
11 セールスマンズ・ロンリネス-Salesman's Lonliness-(山下達郎/山下達郎/山下達郎)
12 Southbound #9(山下達郎/山下達郎/山下達郎)
13 Dreaming Girl<'98 remix>(松本隆/山下達郎/山下達郎)
14 いつか晴れた日に<album remix>(松本隆/山下達郎/山下達郎)
15 Magic Touch<'98 version>(山下達郎/山下達郎/山下達郎)

WPCV-7450
1998/08/26発売
Produce:山下達郎

山下達郎、7年振りのオリジナルアルバムである。前作『Artisan』からこんなにブランクが空いてしまったのは、いかにも「職人」山下達郎らしい。実はこの間に幻の『Dreaming Boy』というタイトルのアルバムがあったのだが、達郎本人がその仕上がりに不満を持ち、店頭発売日まで明らかにされていたにもかかわらず、土壇場でキャンセルということがあったのだ。
しかし、その間にも達郎は精力的に仕事をこなし、現在のレーベルMOON/Warnerのベストアルバム『Treasures』と、RCA/AIR時代のベストアルバム『Greatest Hits! Of Tatsuro Yamashita』をリマスター及び数曲追加しての再発という作業を行っていた。いや、それだけではなく、夫人の竹内まりやのオリジナルアルバム『Quiet Life』とベストアルバム『Impressions』の制作にも関わっているわけだから、この間の達郎自身は休む暇がなかったと本人は言っている。
そこまでして待たされたファンの立場として、このアルバム対する期待度は軒並みならないものであったが、もはや完璧といってもいいほどである。「クリスマス・イブ」の予想外のブレイクにより、「夏男達郎」(本人はこのイメージに必ずしもいいものを抱いていないようだが)といった曲調が影を潜めていたように感じるが、ここでは見事にアクティブで前向き、昔からのイメージの達郎のままを演じてくれている。
アルバムには、ジャケット写真に使われている紙人形の型紙が付属。また、クリスマスシーズンには、ジャケット仕様を変えたものも発売となっている(中身は同じ)。アナログ盤も発売され、これにはCD未収録のボーナストラックも入っている。一部ディープなファンの間では、アナログプレイヤーがなくともこれを買い求めるものなどもして、その人気の高さがわかろうというものだ。ミキサーには、吉田保(吉田美奈子の兄)を久々に起用。

曲解説

氷のマニキュア
これまで山下達郎の相棒としては、初期には吉田美奈子と組んでいたものだが、ここ10数年は作詞も自身がこなすものが多かった。しかし、メロディ先行、洋楽指向の達郎としては、作詞作業が一番頭を悩ませるものだったらしく、松本隆の登場となったらしい。コーラスに、竹内まりやが参加。また、近年になかったことだが、ホーンアレンジを外国人に任せている。
ヘロン
先行シングル。CDシングルとしては、驚異的な\500という値段が長年ファンを待たせた気持ちに現れているのだろうか。ヘロンとは、青鷺のことで、珍しくもビデオクリップが流れる作品となる。達郎自身は海岸で後ろ姿でたたずむところしか、映っていなかったが、前を向くと髪の毛の秘密がわかるということだったのか(爆)。あまり季節感のない曲だが、壮大に羽ばたくような感じがでていて、以前からの達郎ファンには嬉しい曲である。
Fragile
全曲英語詩。作詞者は、「Undercover Angel」などがかつてビルボードのチャートで上がった、アラン・オデイである。彼は古くは『For You』の「Your Eyes」、『僕の中の少年』では「Girl In White」の作詞も担当している。達郎が全幅の信頼を寄せているのだろう。ここでは、「R」音をフランス語のように軟口蓋の奥を震わせるような音を出して発音しているのが特徴的。おそらく今まではなかったものである。
ドーナツ・ソング
このあとのツアーでは、意外なことにこのアルバムからの曲の演奏がほとんどないものであった。ツアーもまた7年振りということで、本人にいわせると「リハビリ」のようなもので、昔からのファンのことも考えて80年代半ば頃の感じにしたかったそうなのだ。つまりこのアルバムからの曲は少なかったのである。そのツアーで演奏された曲がこれ。とはいえ、フルコーラスではなく、間にちょっとしたおかず入りではあったが。
月の光
松本隆の詩である。達郎の曲としては今までほとんどなかったであろう、英語のフレーズと外来語を排除した曲。このあたりにも達郎自身の苦労が伺えそうである。それにしても、「生麻」(きあさ)という表現、「セクシャル・バイオレットNo.1」桑名正博でも使われていたから、よほど好きなんだろう。んなこと誰も覚えていないって。
群青の炎-Ultramarine Fire-
こちらは作詞も自身であるが、オール日本語のフレーズによって構成されている。このあたりはかなり苦心したものと思われるのだが。こちらもツアーでは演奏されている。やはり静かに聴かせようという配慮からか、達郎は、ヴォーカルに専念している。アルバム内ではほとんどを自身で演奏しているのだが。そして、久々に高いキイで歌っているのが印象的。
Boomerang Baby
アルバム唯一のカバー曲。作者の弾厚作とは、加山雄三のことである。実はこの前年、加山雄三の還暦(!)を祝って、トリビュートアルバムがリリースされている。トリビュート作品といっても、かなり人選に問題があり、本当に敬意を持って参加しているのか疑問という人もいたようで、山下達郎はここでは不参加であった。とはいえ、山下達郎が少なからず影響を受けたアーティストであることから、彼なりのトリビュートの仕方を示したものだ。達郎のラジオ番組、「サンデー・ソング・ブック」では、加山雄三のライヴに飛び入り競演した「Boomerang Baby」も流されている。演奏はすべて達郎ひとりで行っている。この人、宅録(とはいえないだろうが)にかけては、斉藤和義やスガシカオより、10年先を行っているといっても良い。
夏のCollage
こちら、クルマのCMソングである。聴いていても、ドライヴにはもってこいの曲。海岸沿いあたりをクルージングするのにぴったりのシチュエーションだと思うのだが。初音源化。
Lai-La-邂逅-
この曲、版権がNHKにもあるから、どこかで使われたのだろうか。どなたかフォローをお願いします。達郎自身のひとり多重コーラスが効いている。
Stand In The Light-愛の灯-<'98 remix>
80年代前半に、ビルボードのTop40ヒットを放った、メリサ・マンチェスターとのデュエット。作詞も彼女である。このためか、版権も複雑で、多岐にわたっている。「Fujipacific」の文字があるから、CX系のドラマか何かで使われたのかもしれない。それにしても今まで達郎のデュエット曲はあったかなあ。
セールスマンズ・ロンリネス
達郎の曲で特徴的なものに、必ずしもラブソングばかりではないということがある。ここではなぜか、午後の一時休憩中の出先のサラリーマン(と思われるが)を描いている。ほとんどエレビの弾き語りのようなシンプルさが、これまでの隙間のない曲作りとは違っている。珍しく音に対するどん欲さはないようだが、ここではこうしたスカスカぐあいがいいのだろう。それにしても、珍しい。
Southbound #9
日産スカイラインのCMで流れていたから、お馴染みであろう。いかにも夏の浜辺がぴったりの曲調で、それこそ、『Merodies』の頃を思い出す人も多いのではないだろうか。達郎とクルマというと、ホンダインテグラの「風の回廊」からはじまるのだが、ブランドこそ違え、その延長線上にあるといってよいだろう。ちなみに、筆者はそのインテグラが買えずに、カーオーディオで達郎を聴きながら気分だけはインテグラであった。今はもうどうでもよくなったが。
Dreaming Girl<'98 remix>
NHK朝の連続ドラマ小説のテーマソング。この時の松本隆との共作、本人が歌うものとしてははじめてのことである(他には、「ハイティーン・ブギ」近藤真彦などはあるが、本人はセルフカバーしていない)。わざわざ<'98 remix>とあるのは、これが一度幻の『Dreaming Boy』に収録されたためである。ドラマの方は、松嶋菜々子と上川達也が主演。思えばこの頃、このドラマのテーマソングには、Dreams Come Trueや、ユーミンが起用されていた。そして、99年時点では、まさかの吉田美奈子である。
いつか晴れた日に<album remix>
アルバムリミックスということからには、別ヴァージョンも存在するようである。マイナーコードなのだが、かつての「Bomber」のようにはグルーブしていない。近頃竹内まりやがリリースしている、シングルのような曲調である。まあ、この年代にしか歌えない曲ともいえよう。冒頭の「雨は斜めの点線」というフレーズは、松本隆にしかできないものであろう。それにしても、強力なコンビが誕生したものである。
Magic Touch
こちらの版権も93年と古いから、どこかでリリースされたものと思われる。また、そうした時代の作品なので、英語のフレーズがばんばん。まあ、これでなくては山下達郎ではないのだが。この人の場合は、曲中に英語が入ってきても、違和感がない。最近の無理あるヒップホップ系、ブラコン系の邦人アーティストたちどう思っているのかなあ。

ライヴレポートはこちら

1998/11/02大阪フェスティバルホール

1999/01/16NHKホール

2002/04/25NHKホール


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