山下達郎 Performance 2002 RCA/AIR Years Special NHKホール 2002/04/25

山下達郎が、このツアーを発表したときから、行きたいと思っていた。このツアーは、山下達郎が、RCA/AIRレーベル時代に、発表したアルバムからの曲のみで、構成するものである。ということなので、代表曲となる、「クリスマス・イブ」などは演奏しない。しかし、山下達郎のライブとなると、4年ぶりのこととなり、ニューアルバムの発表もなしに、ライヴに臨むということはきわめて異例であり、その意気込みも伝わってこようというものである。
しかし、チケット取りには難儀を極めた。まず、ネットであたって、失敗。さらに追加の申し込みもしてみたが、こちらも振られ、最後はぴあのスーパーリザーブシートで何とかなったという次第。とはいえ、期待はいやが上でもついて回るのであった。

ホール到着は時間ぎりぎりであった。今回は渋谷ということもあって、18:30の開演。やがて、メンバーが登場。明かりがついて、「Sparkle」で始まる。ステージには、RCA/AIRレーベル時代のアルバムタイトルで飾られた、看板のようなものが立ち並ぶ。達郎は、ブルー系のスーツでびしっと決めている。次に、「Music Book」。ステージのメンツは、達郎を中心に、その後ろをドラムの青山純が控え、その右隣にペースの伊藤広規が淡々と演奏している。この二人は、達郎がソロでステージに立ってからずっと一緒のリズムセクションである。キーボードは、達郎から離れたずっと右側に、難波弘之。彼も、長い間行動をともにしている。ずっと左側には、重実徹がいる。重実と青山の間に、ギターの佐橋佳幸が官能的なソロを弾く。佐橋はこの前のツアーからバンドに加わったが、メンバー中最年少(といっても、すでに40代)だが、各地で引っ張りだこのセッションマンのみならず、アレンジャー、プロデュース業に加え、自分のバンドも持つという売れっ子である。ステージの一番後ろには、左にサックスの土岐英史が出番待ち。右側には、コーラス隊の、国分友里惠、佐々木久美、三谷泰弘(左から)が踊りまくっている。彼らは、ソロでも十分にやっていける力を持つ、ヴォーカリストである。
曲が終わり、ここで達郎が一言。「こんばんは、東京」。どこに行っても変わらないこのあいさつ。
曲はやがて、「ついておいで」へ。続いて、かなり音が黒っぽくなって、「Windy Lady」へ。やはりこのツアーは、あの時代の曲ばかりだから(といっても、リアルタイムでは聴いていないのだが)、もろにブラック系の影響を受けた曲が並ぶ。「クリスマス・イブ」以降にファンになった人たちには、違和感のあるものだと思われるが、ここに集う人たちは、ファン歴が長いようで、じっくりと座って聴いているのだ。ここからいくつか、曲のおいしいところをつなげたメドレー風となる。
曲は「あまく危険な香り」へと変わっている。ここからは、バラッド風が並び、「Rainy Day」、「ペーパードール」と続く。「キャンディ」、「Solid Slider」、「メロディー、君の為に」(『Pocket Music』収録の曲でツアーのコンセプトからいうとちょっとおかしい。もしかしたら勘違いかもしれない。)と続いていく。2000年の竹内まりやの復活コンサートも、武道館で達郎がバンドの一員として出演するのを見ているが、このときは毛糸の帽子を被り、頭部を露出していなかった。この自分のコンサートはまた別物で、びしっと決めているものだから、頭部も丸見えである。98年のツアーに比べて、本人は、「あまりあの時よりも歳取っていない」といっていたものの、やはり頭は気になる。ステージから遠かったために、禿げ上がり具合は客観的に比較できないものの、ちょっとロン毛とマッチしないような気もした。
それにしても、達郎のしゃべりはいつも長い。達郎がツアーでこのような中型のホールを好んでいるのに対して、相当なこだわりがあるようである。山下達郎はこの長いキャリアと人気に対して、決して大きな会場で演奏したことがない(武道館さえないのである)。東京でのホームは、中野サンプラザを長年使っていたのであるが、このNHKホールに対しても、曰く、「紅白歌合戦だけでなく、いろいろな人が演奏してきたホール。いわば、人の生き血を吸ってきたホールです」と逆説的ながら、これはほめ言葉か。ましてや、ドームなんて、言語道断であり、今回のようなアルバムのリマスターを行うくらいだから、自分の把握するPA設備で思うような音が出せないとなると、演奏したくないのであろう。一通りしゃべり終わると、今度は難波弘之の前に用意されたエレピの前に座り、弾き語りを始める。曲は、「言えなかった言葉を」と「2000トンの雨」である。
このコーナーが終わると、バンドメンバーが引き上げて、一人アカペラコーナーへと移り変わる。「You Belong To Me」「Blue Velvet」「Angel」。はじめの2曲は、『On The Street Corner 』の最初の作品なのであるが、「Angel」は、『On The Street Corner 3』という、最新作である。こちらは、「今日は特別にもう1曲」ということで、サービスのようだ。以前、筆者は、98年のツアーでこの一人アカペラを経験していて、すばらしいコーラス隊もいることから、もう少し彼らを加えて何とかならないかと記述している。もちろん、これも達郎流のこだわりがあるもので、今となってはまあいいかと思うのだが、いつかはやって欲しいとは思う。せめて、3曲やるなら、うち一つだけでも、できないものだろうか。
バンドが復帰して、俄然テンションが上がっていく。はじめはおとなしめの、「いつか(Someday)」だったものの、曲が進むにつれ、ノリがよくなっていく。もちろん、曲間には、達郎の解説も入り、彼のしゃべりも本調子という感じである。また、演奏曲の中で、各個人のソロコーナーも取り入れられ、かなり長い演奏となるものもある。達郎によれば、「昔はバックのミュージシャンも、こだわりのある連中で、インプロビゼーションの掛け合いのようなところがあった」とのことで、1曲、20分とか、かかるものもあったそうである。
ここで演奏される曲はアルバムの代表曲のようなものばかりで、年齢層の高いと思われる、この会場でも立ち上がらないまでも、不思議なグルーブを生み出していっている。圧巻だったのは、「Let's Dance Baby」で、約束事のクラッカーだけではなく、ステージ上に仕掛けられたところから、破裂音とともに、銀の紙テープが大量に飛び散っていく。また、曲の最後の方は、ぐちゃぐちゃにかき回されていて、達郎の好きな曲のサビを取り入れたり、「ハイティーン・ブギ」(近藤真彦/作詞・松本隆/作曲・山下達郎)までが取り入れられていた。まさかここで、「ハイティーン・ブギ」を自らがやるとは珍しい。そして、同じ曲でマイクを通さずに、地声で会場に響き渡すというもの。もちろん、脚立も用意され、「いったいいつまで行うのでしょうか」と自嘲気味にいっていたが、やはりファンはこれがないと来た気がしないのであろう。
一気にボルテージの上がったステージであるが、ラストの「Circus Town」で、みんなに冷静さを取り戻してもらおうという感じである。
ここでひとまず、終了。即座にアンコールの拍手に包まれる。時計を見ると、すでに3時間近くが経過している。とはいえ、まだやっていない曲もあるしなあ。ということなので、これは、ほとんどぎりぎりまで行うのだろうと見当をつける。
さて、メンバーが再び入ってきた。一息入れたらしく、上着を脱いだり、着替えているメンバーもいるが、達郎だけは、元のまま。この間を利用して、ステージに押し掛けて、花束を渡すファンの多いこと。前のツアーでも、このような場面はあったのだが、このときよりも、10倍は多かったと思う。これに一人一人握手して、何事か言い交わしているので、どんどん時間もたっていくような気もする。しかし、嫌な顔ひとつせず、それに応えていく、達郎であった。
先ほどのテンションを引きずっていて、ついに観客が立ち上がりだした。曲もこの時代の中ではもっともノリのよいものと代表曲で構成されている。最後には、全員で、ステージ場に並び、手をつないでのカーテンコールだが、こんなものでは、観客は許してくれないだろう。2度目のアンコールは、達郎一人で登場。そして、エレピの前に座り、弾き語りである。こういう時にふさわしいのが、「Your Eyes」なのであるが、もう1曲、ラストを飾るのにふさわしい曲が、「おやすみ」である。『Ride On Time』と『For You』という、山下達郎の結婚前と直後に作られた、アルバムのともにラストの曲。達郎は、ピアノから立ち上がると、「おやすみ」といって、ステージを去る。このライヴも、遙かに時間をオーパーしてしまったが、来てよかったとの想いが、沸々とわいてきながら、駅に向かった。
評価★★★★
(Set List)
01.Sparkle/02.Music Book/03.ついておいで/04.Windy Lady/05.Medley/06.あまく危険な香り/07.Rainy Day/08.ペーパードール/09.Candy/10.Solid Slider/11.メロディ君の為に/12.言えなかった言葉を/13.2000トンの雨/14.You Belong To Me/15.Blue Velvet/16.Angel/17.いつか(Someday)/18.Monday Blue/19.Funkey Flashing/20.Love Talkin'/21.Bomber/22.Silent Screamer/23.Let's Dance Baby/24.Circus Town/(encore)25.Loveland Island/26.Ride On Time/27.愛を描いて-Let's Kiss The Sun/28.Your Eyes/29.おやすみ

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