01 悲しいうわさ(古内東子/古内東子/小松秀行・古内東子)
02 ブレーキ(古内東子/古内東子/小松秀行・古内東子)
03 大丈夫<remix>(古内東子/古内東子/小松秀行・古内東子)
04 月明かり(古内東子/古内東子/小松秀行・古内東子)
05 そして二人は恋をした(古内東子/古内東子/小松秀行・古内東子)
06 ケンカ<album version>(古内東子/古内東子/小松秀行・古内東子)
07 どれくらい(古内東子/古内東子/小松秀行・古内東子)
08 余計につらくなるよ(古内東子/古内東子/小松秀行・古内東子)
09 いそがないで(古内東子/古内東子/小松秀行・古内東子)
10 宝物<album version>(古内東子/古内東子/小松秀行・古内東子)
SRCL4032
1997/08/21発売
Produce:小松秀行/古内東子
OLの教祖といえば、昔ユーミン、ちょい前、今井美樹なんてところか。そして今ではこの人あたりがその筆頭かとも思われる。もともとは、アマチュア時代姉とコンビで曲を書き貯めていたそうだが、ある時姉に内緒でデモテープを送り、それがデビューのきっかけになったという。(ちなみに、その姉は早稲田のサークルで、イカ天出身の「宮尾すすむと日本の社長」あたりのメンバーと同学年だったとか。)
その経歴として、アメリカへのホームステイを経て、正式に留学し、上智の学生となったものの、こちらの道一本で進むことを決心して中退したそうだ。
筆者は名前だけ知っていたものの、このアルバムで見事にはまった。そのアルバムコンセプトとして、自分の言葉をコンテンポラリーなサウンドにいかに乗せていくかということがあろう。ここでの古内東子は留学経験から使ってみたくなるであろうあちらのフレーズをいっさい排除し、見事に小松秀行のサウンドワークとコラボレートしながら現代風のサウンドを構築していくことに成功している。一見無理になりがちな試みだが、それは見事に合致して、聴くものを酔わせる。続くアルバムでもこの方向性を取っていることからも、これは試みをすでに脱している成功例といえよう。
実際、1度だけコンサートに足を運んだことがあるのだが、バックのメンバーと息のあったところを見せていた。観客はほとんどが女性である。それは、彼女の情念ともいえそうな「恋」の歌がOLをはじめとする働く女性たちにうけている証拠なのであろう。しかし、これからの方向性を探っていくとなると、男性にも共感できるような曲を作っていくとか、ある程度のエンターテイメント性が必要なのではないだろうか。彼女がアルバムで見せているパフォーマンスはすでに上り詰めているところまでいっていると判断するが、今後はそのあたりの余裕を表現できるようになると、凄いことになるのではないだろうか。それにしても、このままとんとん拍子で駆け上がってしまうかと思いきや、いささか飽きられた感があるのか、頭打ちの模様。2001年には、ドラマ「最後の家族」のテーマとして、ビートルズのカバー「In My Life」をリリースし、そのまま、カバーアルバムまでリリースしてしまう。(2001-12-23追記)(2003/04/20追記:今後の課題として、脱「情念」ということがあるだろうが、どうしても、このワンパターンに陥りがちである。)
曲解説
- 悲しいうわさ
- 彼女がうけているというところは、決して成就しない恋、手が届きそうで届かないものを表現しているからではないだろうか。この曲も典型的な失恋ソングである。特に、サビのところで、「愛し合うことには/皮肉なもので/ルールも順序も関係ない」というフレーズが前を向いて生きる女性たちに共感を呼んでいるのではないだろうか。
- ブレーキ
- 昔、はっぴいえんどの実験、「日本語によるロックの表現」がいろいろな方面からの反響を呼んだことが確実に遠ざかっていく20世紀後半。この動きを彼女は特に意識して受け継いでいるわけではないだろうが、「サニーデイ・サービス」などとともに、意識的に外国のフレーズを排除していることだけは確かである。一方、ブラック系、ヒップホップ系のディーバたちが雨後のタケノコのごとく、現れてきたのも確かである。しかし、ここでの彼女は、「心のブレーキから足を離していいかな」というひとことで誰にも真似できない存在感を作り出しているのである。
- 大丈夫
- テレビドラマ「オトナの男」(だったかな、役所広司と松本明子主演。筆者は見てない)のテーマソングでヒットした。歌詞カードを見ると、彼女のメッセージがびっしりと書き込まれていて、ちょっとばかりうざったいなとも感じてしまうのだが、曲自体はさらりとしている。テレビドラマ用というわけでもなかろうが、軽めの曲である。
- 月明かり
- 古内東子の世界は、歌詞だけ聴いている分には、ずいぶんとしつこそうなものがあるのだが、月を見上げるふりをして涙をこらえるという姿勢が「悲しいうわさ」あたりにも通じるものがあろう。それにしても、恋することのできなくなった古内東子はどのように曲を書いていくのだろうか。あるいはこれがすべてインスピレーションによるものだとしたら、凄いことだが。
- そして二人は恋をした
- こちらは現在進行形のラブソングだ。とはいえ、ここでも「十年たってもきっと忘れない」という深い情念の古内ワールドが展開されるのだ。歌詞カードに挿入されている写真を見ると、下着姿の彼女がいる。まあ、プライベートな一コマを提供してこのアルバムに展開される世界に入ってもらおうというねらいがあるのだろうが。
- ケンカ
- バックに男性コーラス(といっても、バンドのメンバー)を起用した作品で、これまでの曲と少し違ったテイストを醸し出している。そして、冒頭の「恋も遊びも仕事もみんなうまくいくことなんて/それはそれできっとつまらない」というフレーズがなんとも共感(男性でも!)できる。中盤の盛り上がりもいい味だしていて、けっこう好きな曲である。
- どれくらい
- アルバム後半に突入して、再び情念の世界に入っていくのだが、寂しげなメロディがそれまでの曲とは少し違った聞こえ方をするのではないだろうか。
- 余計につらくなるよ
- 今度は、「もうすぐ終わる今年の手帳/1ページずつ読み返した」である。こちらはさらにコンテンポラリーなメロディーラインに乗せて歌われている。歌い方も無理がなく、聴いている分にはなかなか気持ちいい。
- いそがないで
- ミディアムチューンのポップス。ここでは、Aメロ、Bメロそれぞれあるがつなぎも含めて気持ちいい。彼女の軽快感が表れているのだが、サックスをフィーチャーしているのが成功しているのではないだろうか。
- 宝物
- このアルバム中のベストチューン。メッセージ性もさることながら、軽快なポップスに仕上がり、彼女のひとり多重コーラスも見事である。結局情念の世界ばかりになってしまうと、とどのつまりは息詰まってしまうと思うのだが。このように上質のポップスを散りばめながら、頑張っていって欲しいものである。この後、ともさかりえなどに提供した曲は成功していることからも、彼女のソングライターとしての資質は、並のものではないと思う。岡本真代が提供する広末凉子などよりずっと大人が聴けるポップスなのだ。
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