Save Our Ship/浜田省吾

Save Our Ship

01 青空(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生)
02 …to be "Kissin' you"(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生)
03 Give Me One More Chance(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生)
04 Love Has No Pride(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生)
05 君の名を呼ぶ(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生)
06 真夏の路上(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生)
07 午前4時の物語(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生)
08 あい色の手紙(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生・星勝)
09 彼女(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生)
10 Theme of "Midnight Cab"(浜田省吾/浜田省吾/星勝)
11 モノクロームの虹(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生・福田裕彦)
12 日はまた昇る(浜田省吾/浜田省吾/浜田省吾・水谷公生)
2001年、4年に渡るツアー中に発表された、16枚目のオリジナルアルバム。前作からは、5年ぶりということで、オリコン初登場2位を記録する。その、『青空の扉』のあと、浜田省吾自身は、「もうここでキャリアを終えてもいい…」と思ったこともあったそうである。しかし、ツアーの中で歌っていくことに、そこで曲を作っていくことに、自分の居場所があることを再認識し、98年、世紀をまたぐツアーを敢行する。このアルバムには、そこで生まれた曲やかつて暖めていた曲も含まれ、全身これ、浜田省吾のすべてをぶつけるという渾身の作品である。それまでの苦悶は、「BRIDGE」誌上での、渋谷陽一との対談に詳しいが、とにかくストレートに、40代終盤の男性ソングライターの気持ちがぶつけられたものだ。現在という時に時代にすり寄ることもせず、新しい試みも自分の中で見事にこなしているという作品だ。25年以上に渡る、浜田省吾のキャリアの中で、「これ」というのは、『Home Bound』でも、『愛の世代の前に』でも、『J.Boy』でもないのだ。そのくらいクオリティの高いものができあがったといえるだろう。

SRCL-5140
2001/08/22発売
Produce;水谷公生/浜田省吾

曲解説

青空
非常に暗い楽曲である。しかしそこには、非常に強い「前へ進もう」という意志が存在していて、アルバム全体の雰囲気を決定づけている。楽曲自体は、92年頃に書かれていたらしく、「愛という名の下に」のテーマ「悲しみは雪のように」のシングルヴァージョンがリリースされた直後である。その頃、まるで何もしたくなくなってしまい、家から一歩も出ずに、青空ばかり見ていたらしい。
…to be "Kissin' you"
これまでにない浜田省吾の作風である。若干のヒップホップのタッチを残しながらも、浜田省吾らしさは決して損なわれていない。共同プロデューサーの水谷公生とは、長年における関係であるが、それぞれ、違った道を歩んできていた。このレコーディング直前になって、出会うことになるのだが、そのときに、水谷はハードディスクレコーディングの技術を取得していたらしい。そして、今までの浜田省吾としては驚くべき人数の少なさで、曲を仕上げていくのだが(なんと、長年の相棒である、町支寛二でさえ、ギタリストとして加わっていないほどである。)、そのような中で、レコーディングは着々と進んでいったらしいのだが、これまでにないものにも挑戦してみようという風になったというのが、この「…to be "Kissin' you"」と「Love Has No Pride」と「午前4時の物語」ではなかろうか。この曲は、アルバム先行シングルとなっている。
Give Me One More Chance
浜田省吾のラブソングの特徴として、片思いであることがあげられよう。浜田省吾自身、「ラブソングがとても悲しいのは、必ず別れを伴うからだ」と語っている。「BRIDGE」のインタビューによれば、「そういう人生だったんですか」と聞かれ、はぐらかしながらも、「そうです」と語っているのが、何とも意外であるが。そのような浜田省吾の悲しいラブソングの定番ともいえるのが、この曲。
Love Has No Pride
副題「この街の男は女のことで悩みすぎてる」。ヒップホップの手法を取りながらも、無理がなく、自然に聴ける。曲調もとてもダンサブルで、ポップである。ラブソングでありながら、恋してしまった相手が、男に暴力を振るわれながらも、そこから逃れられないことに、なんの苦痛も感じていないという、脱出の糸口ゼロという曲である。浜田省吾という人、結構絶望的な状況を描くことにこだわっているようである。
君の名を呼ぶ
こちらも、ラブソング。とてもメロディアス。一番泣かせる曲かも知れない。またここで、彼のインタビューからの引用であるが、「愛の対象というのは、何でもいいと思うんですよね。曲の形では、ポピュラリティを取って、男女の形にしていますけど、自分の中に、最も愛しいものを思うといい。これを失うということによって、この悲しさは共有できる」といいきっている。この悲しみが、アルバム中では、最も、訴えてくるものではなかろうか。こちらも先行シングルである。
真夏の路上
最も、浜田省吾の得意とするタイプ、また、観客受けするタイプの楽曲だ。吉田栄作に「何か思い出になるものを」、とせがまれて、そのときに作っていたものを、20代くらいの視点から、書いてみたというものである。従って、非常にエネルギーのある、前向きな作品となったとの本人のコメントが、インタビューで語られている。
午前4時の物語
仕事を終えて、疲れ切ったところで出会う災難。そんな誰にでも起こりえるようなことを、モチーフにしている。非常に個人的な問題を含んだテーマだが、浜田省吾としては、これに対して、逃げることもせず、真正面からぶつかっていくということで決着をつけているようにも見える。作品の手法としては、かなり荒削り。ヒップホップが使われているものの、無理がなく彼なりに消化している。それにしても、相手にバットを振り下ろしてしまうとは。
あい色の手紙
曲としては22歳頃に書かれたものだが、未完成だったらしい。ところで、「真夏の路上」、「午前4時の物語」、「あい色の手紙」は、三部作で、「真夏の路上」の主人公が、「午前4時の物語」で車にナイフを突き刺す少年、その相手にバットを振り下ろしてしまった人物が、ここでの主人公だという。言葉は、その後に徐々に付け加えられ、罪を償っている者の立場で、書かれているのである。
彼女
浜田省吾自身、アルバム中で一番好きな楽曲らしい。この曲ができたことで、アルバム制作も、ぐっと楽に進むようになったという重要な曲。確かに、これがないと、重苦しいもので終わってしまったかも知れない。NHK制作のドキュメンタリーで見たところでは、この曲の時は、アカペラでコーラスがつけられるという、いい雰囲気を垣間見ることができた。
Theme of "Midnight Cab"
設定は、タクシードライバーに客が語りかけるものとなっている。すべて英語で、主人公は疲れ切った老人である。ライヴでは、実際に浜田省吾がタクシードライバーに扮して、この曲が流れるというものらしい。ここだけは、星勝のアレンジであるが、「Misty」っぽい感じながらも、雰囲気は良くでている。
モノクロームの虹
ツアー「On The Road 2001」をはじめるにあたり、バブル崩壊後のこの立ち直れそうもない状況について、タイトルにしてみたという曲である。やはり社会状況などには、敏感なところがある。また、ミュージシャンをやっていたら、あまり遭遇しないであろう、リストラなども、年代的には符合するところがあって、そんな人たちへの応援歌なのかも知れない。ツアーを始める前にシングルが、リリースされている。
日はまた昇る
「モノクロームの虹」がバブルで色の付いていない幻を見ていたということに対して、また太陽が昇るのだという、強いメッセージ性が込められている。4年に渡るツアーということで、アルバムは、短期間で仕上げられたと思われるが、中には、古い楽曲もある。しかし、ラストの3曲で、ツアーの内容と連動するように、曲順が持ってこられているらしい。

参考文献:「BRIDGE」Vol.32 浜田省吾インタビュー(Interviewer:渋谷陽一)


ライヴレポートはこちら

2002/01/12日本武道館


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