佐野元春 The Sun Tour Final NHKホール 2005/02/20

年末のクリスマス・イブに引き続きの参戦。今回の同行者は、Fbeaterでもある、#NARU#氏である。渋谷地区のライヴは、週末になると、早い時間に繰り上がる。条例でもあるのだろうか。ともかく、この日は、18:00スタートということである。また、佐野元春自身実に久しぶりとなるとなる、NHKホールなのだが、これは、いつも使っている渋谷公会堂が改装工事中であることに、関係があるだろう。また、このライヴは、ビデオとDVDに収録され、編集されて、発売されることが決まっている。そのためかどうか、後日、BSフジでも、この公演が放送されるとのことだ。
自分にしては、珍しく、開場からしばらくたってからの入場となる。先に席についていた、#NARU#氏によると、リハーサルが長引き、入場したものの、ロビーでしばらく待たされたとのこと。確かに、初めての会場ということもあるが、撮影が入っているため、入念なリハーサルがあったものと推測する。自分たちの席は、あいにくと3階だが、ステージに向かうとほとんど正面というか、マイクの位置と正対していることが判明する。しばらくした、会場のアナウンスでは、やはり二部構成ということが告げられた。それにしても、待ちきれない観衆は、リズムをつけた拍手を繰り返す。ほとんどノリの悪かった、神奈川県民ホールが嘘のような反応である。
男性の声のオープニングを告げるパフォーマンスめいたアナウンス。これに続き、賑やかなイントロが流れる。曲はやはり、「Back To The Street」。中央には、白いスーツ、白い靴、白いシャツの元春がギターを持たずに、マイクに向かっている。ここでは、Dr.Kyonもギターを抱え、佐橋佳幸とのツインギターである。まったく、つい2ヶ月前に見た時と同じ展開だ。ただ、あの時と違っているのは、サックスに山本拓夫が復帰し、あの時よりも少しだけはっきりと音が聞こえることだ。やはり、リハーサルで音声チェックをしっかりとやったようだ。ただし、元春の声はやはり少しだけくぐもったような感じである。続く、「So Young」「Happyman」も同様だ。
ここでMCがはいる。しかし、短いもので、すぐさま、「ヤァ!ソウルボーイ」へ。ここから落ち着きを見せ始めて、声も安定したものとなる。この展開も、前回の公演と同じ。この曲のあたりから、3階席でも徐々に聴衆がたちはじめる。筆者ももちろん立ち上がる。1階席を見下ろすが、こちらは最初からみんな立ち上がっている。次に初めて元春がアコースティックギターを抱えて椅子に座る。「♪ABC〜」。「僕は大人になった」である。ほとんどこなれているかなのような演奏。ここからは、第一部の終了まで安定したものが続くが、わずかにハウリングも聞こえてくる。特筆ものは、「風の手のひらの上」「99 Blues」ではなかろうか。前者は、アルバム『The Barn』に入っていたものだが、その後のツアーでは、裏声を多用していた。ここでは地声でかなりオリジナルのアレンジに近い。むしろ、地声なので安心して聴くことができるのである。「99 Blues」もアルバム『Cafe Bohemia』に収められているが、このところは、The Hobo King Bandヴァージョンという、新しいアレンジで演奏されることが多かった。しかし、ここでは、ほとんど原曲に近いアレンジでこれは素晴らしいものだった。続く、「Individualist」では、HKBヴァージョンで、かなり長いソロパートが含まれていたが。ここで、第一部は終了。
第一部のセットリストは、まったく横浜のものと同じであった。だが、わずかではあるが、パフォーマンスは向上していると思った。残念なのは、それほどひどいものではなかったが、ハウリングが起きたことである。
続いての第二部。やはり元春は、黒い縁取りの入った赤いスーツに着替えている。ここからは、ニューアルバム『The Sun』からの選曲である。元春はやはりヴォーカルに専念するかのように、マイクの前に立ったままである。第一部の背景と違い、ここでは、アルバムジャケットにあった、土色の壁が築かれていた。その上には若干の青空があるようだ。しかし、この位置からは見えない。そして、何とも、アルバムに忠実なアレンジでの演奏が続く。アルバム『The Sun』は、セールス的には、失敗に終わったといえるだろう。しかし、この中でのパフォーマンスは、4年をかけたこともあり、かなり練り上げられているものと思う。少なくとも、The Hobo King Bandとなってからの作品としては、最高のものだ。これがステージで見事に再現されているのだ。これも観客はよくわかるのだろう。惜しみない拍手と、ヤジさえも飛ばせないような、誰もがステージに釘付けとなるような集中度なのである。
「希望」という曲では、アルバムではDr.Kyonのマンドリンがフィーチャーされているが、このライヴでは、これを佐橋佳幸が行う。Dr.Kyonは、キーボードに専念である。もちろん、佐橋佳幸も、ギターをはじめとする、弦楽器に関しては遜色がないのであるが、マンドリンとなると、経験の長いDr.Kyonである。しかし、これまた違和感が全くなく、演奏された。ギターは、元春が久しぶりにアコースティックギターを担当する。ここでの演奏は、アルバム中では、唯一The Hobo King Bandによらない、「観覧車の夜」という曲も含まれていた。これは、ラテン音楽を得意とする、高橋ゲタ夫(ex オルケストラ・デラ・ルス)などが参加した作品なのだが、The Hobo King Bandも、これを忠実に再現しているようだった。また、これまでのボブ・ザングに変わる、山本拓夫のパフォーマンスも、ここでの演奏にプラスに働いている。ボブ・ザングはそれなりに忠実にこなしていたが、やはりバンドとしての一体感は、感じられない。改めて、新生HKBでの山本拓夫の存在が大きいものだと思われるのだ。
「君の魂 大事な魂」前のMC。「僕のファンは三世代にまたがっている珍しいものだ。かつてはティーンエイジャーで聴きに来てくれた人が、今は30代のお父さんになって、幼い子供を連れてきていたりしている。いつの公演だったか、そのあたりにそんな親子がいて…(中略)…はじめはきょとんとしていたんだけど、この曲が始まると、その子は椅子に立ち上がって、完璧に歌いこなしていたんだ」というもの。実は、これまた、横浜のエピソード紹介と同じものであった。今回の公演では、ほとんどセットリストを変えることなく、忠実に演奏を再現している。これがMCにも及んでいるので、おそらくは、映像向けに何もかも破綻のないようにという、元春の強い意志が働いていたように思う。でも、少しは冒険心も見せてもらいたかったというのも事実である。
「DIG」。Dr.Kyonがギターにチェンジし、佐橋佳幸とのツインギターとなった。これを見て、観客が立ち上がる。元春は、ヴォーカルのままだが。このあたりからのパフォーマンスからは、かなりロック色が強くなる。続く、「国のための準備」で元春が初めてフェンダーを手にする。実は、『The Sun』(初回限定版)のジャケットを開け、CDを取り外すと、日の丸が現れるのである。とはいえ、ここで元春がいいたいことは、ごく一部の政党的なニュアンスが含まれているとは思わない。ライヴでのパフォーマンスは、日の丸にこめられたものとはどこか隔絶している。あの日の丸は、政治的な立場を問うようなものではなく、このアルバムが作成される段階で起きた、アメリカの同時多発テロ〜アフガン戦争〜イラク戦争と続く何かに対しての、象徴的なものなのだと思う。
第二部のラストは、「太陽」である。ここで、バックの壁が左右に分かれ、広がった青空の中心から、太陽に見立てられた白いライトが登っていくのである。こうした仕掛けがあるのは、今までの佐野元春らしからぬものなのだが、とてもいいと思った。第二部はほとんど完璧だったと思う。
早くも、リズムをつけた拍手がわき起こる。実に、渋谷の観客は反応がいい。それに応えるかのように、すぐさま現れる、佐野元春とThe Hobo King Bandであった。元春は、スーツを脱ぎ捨て黒いジーンズに白いシャツ姿であった。元春がフェンダーを手にする。曲は、「バイバイ・ハンディ・ラブ」。この頃になると会場も興奮状態であった。もちろん総立ち。これが次の「アンジェリーナ」に移ると、さらにテンションが高まる。サビの部分はほとんどの人が歌い出す始末である。そんなあまり聞こえない状態の中でも、元春はきっちりと歌っているように感じた。ここでいったん退場。
2度目のアンコール。これまたすぐに登場する。「悲しきRadio」「♪昨日買ったばかりのRed Low Heel Pamps」の下りでも、昔のように足を高く上げる。また、「♪こんな夜にビートを探して…」と歌い、元春がマイクから顔を遠ざけ客席に耳を傾けるともちろん「♪ムード盛り上がれば〜」という反応が返ってくる。曲の終盤にも、ポケットを覗き込み、「ハートブレイク」を探すふりをしたり、パフォーマンス一杯であった。途中、元春もギターを抱えたままの膝スライディングを見せたくらいなので、乗っている証拠である。このあと、ハートランド時代から形やアレンジを変えながらも、一貫して続けている、メドレーへと突入。元春が口ずさむフレーズを客席にも続けさせることを要求したり、かつてはダディ柴田などがメインとなって行っていた、元春を指さすパフォーマンスはDr.Kyonがギターで行い、I Love You You Love Meへと突入。この一連の流れはかなり長いものとなった。
メドレーが終わり、元春がメンバー紹介を行う。ツアーラストということもあり、ローディを含めたスタッフの紹介までもが行われた。「ああ、これで終わってしまうな」とこの時思った。しかし、鳴りやまない拍手。元春はバンドと和になって相談し、もう1曲となる。古田たかしのドラムソロのオープニング。「Someday」であった。元春は途中まで歌っていたが、あとはほとんどを客席に任せていたような感じである。これが本当にラストナンバーとなった。
会場をあとにする。#NARU#氏は、第1部と第2部を逆にし、曲も厳選して、今きっちり歌えるものにすればよかったとの感想である。筆者は、横浜よりは出来がよかったと思った。ただし、昨年末の大阪では長田進が出たというのに、ラストにしてはゲストなしというのも、やや不満のあるところ。また、「Someday」は、感動ものではあったが、セットリストとしては必要なかったようにも感じた。オリジナルのキイでは、もう歌えない状況なんだろうし。古田たかしがドラミングするこの曲というのも、初めてであったので、それはそれでよかったのだが。第2部は完璧だったかも知れない。改めて思ったのは、アルバム『The Sun』が、素晴らしいものだということである。このあと、渋谷のとある飲み屋に入り、祝杯を挙げたのはいうまでもない。
評価★★★★+1/2★
Set List
(1) Back To The Street (2) So Young (3) Happyman (4) ヤァ!ソウルボーイ (5) 僕は大人になった (6) また明日 (7) 風の手のひらの上 (8) 99 Blues (9) Indivisualist (10) 月夜を往け (11) 最後の1ピース (12) 恵みの雨 (13) 希望 (14) 地図のない旅 (15) 観覧車の夜 (16) 君の魂 大事な魂 (17) 明日を生きよう (18) DIG (19) 国の為の準備 (20) 太陽
<encore> (21) バイバイ・ハンディ・ラブ (22) アンジェリーナ (23) 悲しきRadio〜HKBメドレー (24) Someday

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