佐野元春 The Milk Jam Tour 渋谷公会堂(追加公演・ファイナル) 2003/07/20

渋谷AXの興奮から、1週間。この日はいよいよツアーファイナルである。2席取れたので、旧友のヒデと東武ホテル前で待ち合わせ。開場までをここの喫茶店で時間をつぶした。雨が落ちてきそうな天気だったが、ぽつぽつとは来ていたものの、何とか持ったようで、渋公前に移動。とんでもない人だかり。またしても、アナウンスによると、機材調整のため、開場が遅れているとのことであった。なんてことだ。せっかくの18:00開演という、美味しい設定であるというのに。結局開場となったのは、18:00をわずかに過ぎた頃で、しかも、ロビー内で待機という。席につき、客電が落ちたのは、18:15くらいであったか。ああ、これで、3時間オーバーという、ライヴは期待できなくなってしまった。だが、おそらく渋谷地区のぎりぎり、21:00までは、2時間半以上ある。それでも、AXの時より30分は長く聴けるかも。まあ、これは、佐野元春にとって、リハビリのようなツアーなので、そこまでは期待してはいけないものかも知れないのであった。
AXよりは、ステージが広めなためか、The Hobo King Bandの面々が出てきて演奏が始まるまでやや間があった。「The Hobo King Bandのテーマ'03」、それにしても、なんてかっこいいものなんだろうか。数々発表されてきた、佐野元春のインスト曲というよりは、ここだけは、The Hobo King Bandの主張が勝っているようにも感じる。おそらく、作曲などは、佐野元春ではなくて、バンドメンバーたちなのであろうが、ニューアルバムでも、取り上げてもらいたいものがある。ボーナストラックでもいい。
演奏が終わって、すぐ、バンドは「Complication Shakedown」のイントロをやり始める。曲と共に、佐野元春が登場。ギターは抱えてなく、ヴォーカルに専念である。また、ここでも、しっかりヴォーカルのサポートに、佐橋佳幸が回っている。終盤のガラスの効果音は、やはり、キーボードのKyonが、音を出しているのが判明。なんといっても、二階席のかなり高い位置なので、これがはっきりとわかってしまうのだ。あるサイトで、Kyonのインタビューを読んだが、彼が客席に対して、横向きに位置するところで弾くものは、サンプリングした音を、再現できるものらしいのだ。こういう楽器が出てくると、マニピュレーターや、打ち込みがいらなくなり、ライブでのバンドの音が、一体感を持つと思う。元春も、曲の途中で脚を高く上げる動作を入れ、早くも観客が沸く。次の「Wild On The Street」でも、古田たかしがヴォーカルのサポートに入っているが、佐野自身の声の調子はよいようだ。元春は、終盤、横のパーカッションを叩く。
初めてのMC。−どうもありがとう。ツアーはこれがラストのステージとなる。
続いての、「Come Shinning」は、やはり古田たかしがヴォーカルのサポートに回っているが、サビの「♪Let's Make Love Tonight」のところは、佐橋とKyonが、コーラスに回っている。また、終盤に、佐橋のゴムホースを通した、ギターと直結の声と、山本拓夫のサックスの掛け合いが、素晴らしい。
−どうもありがとう。The Hobo King Band !。新しいアルバムを作っている最中です(笑)。そのアルバムから、曲のタイトルは正式には決まっていないけれど、こうしておきます。「Fish」ということで、アルバム『Visitors』ナイトではなかったようだ。しかし、この曲は、元春に対してのヴォーカルのサポートがなく、元春の声がはっきりと聞こえる。そのテンションは、AXの時よりも、はっきりいって上だ。いきなり声量が増えるということもないのだろうが、おそらく、渋公のホールの状態と、音場的なセッティングがよくマッチしたからだとは思う。ここから、「ボリビア−野性的で冴えてる連中」「ブルーの見解」になだれ込むのだが、このあとに嬉しい選曲が。それは、アルバム『The Barn』から、「Doctor」を演奏したのである。これを聴くのは、ほとんど5年ぶり。The Barnツアーの時以来である。あの時も、元春は主旋律を高音で歌っていたのだが、今回は普段のキイである。やはり、ひねったものではなく、ストレートな生声の方が、伝わってくるものだろう。曲のタイトル通り、キーボードのKyonが長いソロを弾き、スポットが当たる。また、非常にベースラインを重視した曲なので、終盤には、井上富雄のソロもあった。エンディングは、かなり工夫してあり、なかなか終わらない。終わったと思ったら、沈黙のあと再びエンディングがかかると行ったことが繰り返される。
−どうもありがとう。今度のツアーでは、始まる前に、The Hobo King Bandとどれをやるか話した。来年、『Visitors』というアルバムが、20周年になるので、ここからやろうじゃないかということになった。次の2曲は、このアルバムに入っていた曲で、座って聴いて欲しい。と、聴衆を座らせる。ちなみに、一階席はほとんど立ち上がっていたが、二階席は、半分くらいが立ち上がっていた。筆者は前の方が誰も立っていなかったので、そのまま座って聴いていた。ここの、「Sunday Morning Blue」では、この日一番出来が悪かった。それほど高いパートがあるわけでもないが、声があまり安定せず、素人のような歌い方になっていた。とはいえ、元々プロにしては、音程が安定しない、とりにくいというのが、佐野元春であって、このひどさも、ここだけ。あとはほとんど破綻なく歌い切っていた。また、Kyonのところで、やはりサンプリング音を彼が鳴らしていることが席からはっきりとわかった。続く、「Tonight」も、ニューヴァージョンのアレンジでスローだったが、やや元春が走りがちか。
そして、新曲「レイナ」では、−今まで人の名前のつく曲は、なかったけれども。といって、始まる。確かに、「アンジェリーナ」と「ジュジュ」くらいなものだろう。この曲は、「Fish」のファンクな感じと違い、しっとりとした感じである。もしかしたら、シングルカットされるかも知れない。
そろそろエンディングに向かっているのかと思い、時計を見るが、まだ20:00を過ぎたくらいである。「C'mon」でシンプルな演奏を聴かせたあとは、おそらく、元春のものだろう、「シブヤー!」という、叫び声が上がる。これで一気に会場はヒートアップ。総立ちとなる。Kyonも前に出てきての、「ブロンズの山羊」である。前面に出てきた、三本のギター。セットリストの中で、最もロック色の濃いものとなる。佐橋とKyonが左右に散り、ステージ最前列まで乗り出しての演奏。彼らが途中入れ替わり、左右が逆になる。ここで、マイクの位置を見上げる、佐橋佳幸。この人もだんだん役者になってきたものである。
−どうもありがとう。今の曲は新しい曲です。The Hobo King Band。
いよいよ、「Night Life」。もう、古くからのファンは、大喜びである。曲に乗った手拍子も、一段と熱が入る。そして後半は、「The Hobo King Bandのテーマ」と一体化した、メンバー紹介。順番は、佐橋佳幸、井上富雄、Kyon、山本拓夫、古田たかしというオーダー。元春の彼らの呼び方も、だんだん変わってきているが、佐橋佳幸は、相変わらず「佐橋コロちゃん」。Kyonには、「ドクター」がつけられ、山本拓夫は、「山本拓ちゃん」。そして、古田たかしは、「古田マイティたかし」である。それぞれ自己紹介では、長いソロを行う。この日はとりわけ長かった。10分くらいかけていたようにも思う。そして、ラストには、例の札が掲げられ、この日はローディまでが出てくる。会場内をShakeの合唱で包んだあと、「♪I Love The Night Life」を歌わせる。この日も、ハートマークを手で作って、感激のサインを見せてくれた。
−今日は聴きに来てくれてありがとう。最後なんで楽しんで。古い曲をやるが、昔を懐かしむためじゃない。今を楽しむためにやる。この曲は、心がデリケートな人に対して歌っているんだ。
この日は、とりわけ、しゃべりが多いようだ。その「彼女はデリケート」は、どちらかというとあっさりした感じだったが。そしてラストは、まさかの「そこにいてくれてありがとう」である。ひとまず、会場にあいさつして、退場となる。
少しの間を挟んで、ヒデと話をする。先週よりも声がよく出ているとか、まだ聴いていない曲などの話。「アンジェリーナ」などはまだだが、個人的には、もっと違う曲も聴きたいなど。
再び、スポットがつき、バンドの入場。元春は元のネルシャツ、山本拓夫もプリント柄の大胆なシャツだが、残りのメンバーは、ツアーグッズのTシャツ姿である。チューニングをして、「New Age」。『No Damage II』ヴァージョンだ。−まだレコーディングが続いているんですけど、この曲はかなり有名なのかも知れない。といって始まったのが、「Sail On」。悪くはないが、あのジョン・レノンの某曲に似ているような気もした。ここで再び退場。そして、会場は再びアンコールの拍手に包まれる。
再び出てきたとき、The Hobo King Bandは不在である。おっと思いつつ、見ていくとなんと、佐野元春自身のアコースティックギターの弾き語りなのだ。曲は、「ヤァ!ソウルボーイ」。渋公の中が静まりかえる。ほとんどの観客は元春の弾き語りを見ることは初めてなのではなかろうか。そんな筆者も、神奈川県民ホールで「スターダスト・キッズ」の弾き語りを見て以来、5年ぶりなのである。これはいいものを見せてもらった。できもさることながら、来た甲斐がある。
バンドが入場し、−もう一曲行こう!のかけ声で、「アンジェリーナ」。この日は声がよく出ていることを確認済みなので、サビは一緒に歌う。ここで、再びのメンバー紹介。続いてスタッフの紹介。−全国のファン、ここにいる人たち、どうもありがとう。しかし、拍手は鳴りやまず、ラストは、また相談して、「スターダスト・キッズ」である。
アンコールの拍手は鳴りやみそうもなかったが、佐野元春がこのあと長いMCを行う。
−まだ、レコーディングが続いている。今、僕はあまりレコード会社とはうまくいっていない。少しだけ待たせるかも知れないけど、不景気なのはレコード会社だけじゃない。ここにいるみんなと今の状況を乗り切りたい。少し応援して欲しい。次のライヴやレコードでまた会おう。楽しみにしています。
そして、マイクが会場側に向けられ、いよいよ終了だ。佐橋佳幸とKyonもこれを真似て、別のマイクを会場側に向けるという、茶目っ気ぶりを見せてくれたが。
この日はAXよりも、コンディションがよかったようだ。ただし、ライヴ構成が、いささか消化不良気味である。これだけのキャリアがあると、演奏曲も定番みたいなものが決まってくるのだが、それにはこだわりたくない。別に、「Someday」がないのも、不満ではないが、あれだけのコンディションであれば、もっと別の曲もやれたはずだ。特に後半のヒット曲などは、少しひねってもよかったのではなかろうか。とはいえ、ライヴで聴いたことのなかった曲が演奏されたというのも、収穫のひとつ。今回が、リハビリということを考えると、フィフティフィフティなのではとも思う。次のアルバムと、ツアーにはこれまで以上の期待をしたい。
評価★★★★
<Set List>
(1) The Hobo King Bandのテーマ'03 (2) Complication Shakedown (3) Wild On The Street (4) Come Shinning (5) Visitors (6) Fish (7) ボリビア−野性的で冴えてる連中 (8) ブルーの見解 (9) Doctor (10) Sunday Morning Blue (11) Tonight (12) レイナ (13) C'mon (14) ブロンズの山羊 (15) Night Life (16) 彼女はデリケート (17) そこにいてくれてありがとう
<encore>  (18) New Age (19) Sail On (20) ヤア!ソウルボーイ (21) アンジェリーナ (22) スターダスト・キッズ

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