佐野元春 The 20th Annivarsary Tour 日本武道館 2000/03/11

この日は、曇り。17:00過ぎに九段下の駅から会場に向かうと、いつもにましてたくさんのダフ屋がやたらに声をかけてくる。その眼が何となく鋭い。この会場は、ロビーなんてものがないので、ツアーグッズ売場も、会場の外のテントだ。ここを取り巻くように、人垣ができている。
さあ、時間になった。我々も会場入りすることにしよう。今回の席は、スタンド2階ではあるが、南面。つまりステージ正面である。すでにBGMとして、元春ナンバーが流れ続けている。中には、12インチヴァージョンの「Tonight」なんかもあった。ステージには、白い巨大な幕が掛けられ、時折楽器のモニター音も流れてくる。会場のアナウンスによると、今回は二部構成で、途中に10分間の休憩があるという。
19:00ぴったりに客電が落ちて、小林克哉のナレーション。ステージの幕には、「20th Anniversary」などの文字が投影され、ステージ後方のライトで、数名のミュージシャンのシルエットが浮き上がる。イントロと同時に、その幕が落とされた。そこにいるのは、白いシャツを着こなし、赤いフェンダーを抱えた佐野元春を中心に、The Hobo King Bandと、今回起用された若いブラスセクションのBlack Bottom Brass Band(以下BBBBと表記)。曲は「ガラスのジェネレーション」だ。会場は総立ち。会場の音場バランスだが、いうことなし。元春の声も2階のここまでよく届いている。それにしても、はじめからこいつで飛ばしていいのか。
しかし、これはまだまだ序章に過ぎない。いつもならば、終盤に持って来るであろう、「Happy Man」「ダウンタウン・ボーイ」と懐かしいナンバーが続く。というのも、いつものライヴと違って、今回はデビュー20周年ということであるから、佐野元春の歴史を振り返るという意味もあるようなのだ。つまりは常にピークのような状態。ここで、MCが入り、「どうもありがとう、東京。20周年ツアーのチケットをキープしてもらってみんなここに来てくれた。とても嬉しい」といったことを口にする。元春が口を開くたびに、観客もそれに呼応する。いつもにまして思い入れのあるオーディエンスたちのようである。
続く、「Wild Hearts(冒険者たち)」。今回は、ブラスセクション、BBBBが入り、サウンドが引き締まる。特に、この曲のように、ブラスなしでは考えられない曲も、演奏できるということは、ファンにとっては嬉しいことである。そして、キーボード、その他諸々の楽器担当のKyonにしても、彼らの参加は負担を軽減してくれるものだろう。まあ、ファンとしては、Kyonが、マンドリンやアコーディオンを抱えて、前面に出てくるのを期待してはいるのだろうが。
元春がアコースティックギターを抱えて始まったのが、「Rain Girl」。それにしても、会場が一気に大きくなり、音のセッティングも大変だっただろうが、ここのところ元春を悩ましている、ハウリングといったものがなく、元春もそちらに気を使うことはなかったようだ。
Stones and Eggsツアーとはまた違った懐かしい曲のオンパレード。こんなに早く、「Heart Beat」をやってもいいのかという、客席の反応がさめやらぬうちに、「マンハッタンブリッジにたたずんで」という、『Niagara Triangle Vol.2』収録の曲を。続いて、「Young Bloods」。ここまで来ると元春は疾走状態。彼もシャツの裾を出して、臨戦態勢に入ったような感じ。
そして、ギターも外して、マイクだけになり、「Do What You Like(勝手にしなよ)」というまさかのナンバーも。ベースの井上富雄も、アコースティックベースを使用しているではないか。
第1部のラストは、「悲しきRadio」。再びギターを付けて歌い出し、お決まりのパフォーマンスもやってくれる。後半はメドレーになって、メンバー紹介を兼ねた、各パートのソロ。いつの間にか、Kyonも、ギターを抱えて、ステージ前方に出てくるかと思ったら、佐橋佳幸と左右の袖に別れて、ファンサービスだ。BBBBも、後方の台上から降りて、前面に出てくるし、元春、佐橋、井上による、揃っての流れるような膝と腰の動きも、見るのは初めてだ。
終了間際、元春のMC。「音楽とは、世界がひとつになれる。そんな夢のようなことが実際に今夜はできるような気がする」このあと、元春の即興フレーズに、観客が加わってリフレインする、お決まりのコーナーへ。はじめは、観客となかなかあわずに、背中を向けてしまうポーズもあったが、これで気合いを入れ直した観客は、見事にリフレインで応えてくれた。元春も満足する出来だったのではないだろうか。

約10分間の休憩後、赤いシャツに衣装替えした、元春がエレビの前に座る。どこかで見たようなシーン。「ミュージック・フェア」でも披露した、「彼女」である。純粋に元春ひとりの弾き語りかと思われたが、後半ベース音が大きくなり、井上富雄にも、小さくスポットが当たる。彼も、いつの間にかでていて、スタンド型のベースを弾いていたのだった。
続いて、アコースティックセットが持ち込まれ、「Young Forever」のアコースティック・ヴァージョン。最近はこちらのタイプが多く、もはや聞き慣れてしまった。
BBBBも登場して、通常のセットに戻る。しかしここからは、打ち込み音も使われるようになった。それとともに、元春もギターを外して、ヴォーカル一本の勝負。「New Age」「Come Shining」「Complication Shakedown」と、『Visitors』三連発。さらに、「GO4」「Individualist」(元春がコンガを叩く)と、武道館がヒップホップに揺れる。元春のコンガは、もう自然に身体が動いてしまうような感じなのか、全身でのパフォーマンス。これらの曲の一部は、前のツアーでも披露されていたのだが、やはりブラスが入るときっちりと決まる。B.B.B.Bも、元春との初共演であり、ブラスのパートも、原曲のアレンジに近いものが採用されているため、こちらにとっては、聴きやすくなっている。
「一緒に歌おう」といって始まったのが、「約束の橋」。会場のファンも歌いたくて、うずうずしていたのだろう。前から横から後ろから、会場のほぼ中央にいたため、誰もが佐野元春になりたいような、そんな感じだ。ここの後半、元春はマウスハープを取り出して、ソロをとってくれた。

間髪を置かずに、「Rock & Roll Night」。こちらも、20年の思いを胸に、あちこちで一緒に歌っている人がたくさん。それにしても、印象的なピアノの音でのラストの部分は、西本明に弾いてもらいたかったと思うのは、自分だけではあるまい。

「Someday」。この曲だけは、常に自分もつい歌ってしまうのだが、今回は我慢。というのは、自分が歌ってしまうと、佐野元春の声が聞こえなくなってしまうからである。この曲を含めて、今回は純粋に20周年を祝うために、肝心のフレーズをコーラスするくらいにとどめておいた。事実、元春の声も、十分にこちらまで届く。そして、若いブラスセクションであるが、あのサックスの音色は、ダディ柴田に負けないくらいの、勢いがあったと思った。
さて、このライヴの盛り上がりはここがピークではなかった。最後に「イノセント」こんな曲でも、佐野元春になりたい症候群の観客は、歌いこなしてしまっている。そして、ここの後半で、メンバー紹介。ラストは、The Hobo King Band最年長のKyonによる、佐野元春の紹介。「武道館に春を呼ぶ男。21世紀に春を呼ぶ男」というものであった。

佐野元春以下、10名の男達がステージを去る。ほとんど同時に、アンコールの拍手が打ち鳴らされる。同行者と「何をやっていないか」という話を少しした。そう、「あの曲」がまだなのだ。
三度登場した、彼らは、もちろん「あの曲」をやってくれた。「あの曲」とは、デビュー曲である、「アンジェリーナ」。イントロ部分のブラスがとてもかっこよい。この夜の佐野元春の演奏曲は、名うてのバンドマンに加えて、若いブラスセクションが加わり、これまでにない新しい息吹があったように思う。
こちらが終わって、次は何か。非常に頭を悩ませていた自分だが、ブラスのイントロが嬉しかった。まさかこれで来るとは。けっこう好きな部類に入る、サードシングルの「Night Life」である。まさかこんな曲が来るとは。もう、この夜は、嬉しい裏切りばかり。こんな裏切りならば、何回でも体験したいぞ。
元春がメンバーを呼び、さらには、BBBBも呼んで、ステージに横一列になった。ここで観客や、スタッフに感謝の言葉をかけ続けている。さすがにファイナル、自身も良いライヴだったとの自負があったようだ。謝辞はローディたちにもおよび、かなり長い間続いたが、観客はにこにこしてこれに聞き及んでいた。
終了は、22:00を回っていた。北の丸公園は、時間が来ると、街灯が消えてしまう。ライヴの余韻に浸りながら、歩いていると、これが起こった。やや驚きながらも、偶然の演出に、喜ぶ人々の姿があった。さあ、我々も、佐野元春の20周年と今夜のパフォーマンスに対して、祝杯を挙げるときが来た。街に繰り出そう。

<Set List>
(第1部)
(1) ガラスのジェネレーション (2) Happy Man (3) ダウンタウン・ボーイ (4) Wild Hearts(冒険者たち) (5) Rain Girl (6) Heart Beat (7) マンハッタンブリッジにたたずんで (8) Young Bloods (9) Do What You Like(勝手にしなよ) (10) 悲しきRadio
(第2部)
(11) 彼女 (12) Young Forever(accoustic version) (13) New Age (14) Come Shining (15) Complication Shakedown (16) GO4 (17) ndividualist (18) 約束の橋 (19) Rock & Roll Night (20) Someday (21) Innocent
(encore)
(22) アンジェリーナ (23) Night Life

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