佐野元春 Stons and Eggs Tour 大阪フェスティバルホール 1999/09/04

佐野元春が再び疾走をはじめた。ツアースケジュール発表とともに、いくつかの会場を押さえるが、もちろん関西在住の友人にも声をかけ、これを押さえてもらうこととなる。自分の日程調整も何とかなり、その日の夕方には大阪入り。その友人たちとも無事再開を果たし、大阪フェスへ。フェスの入口に一歩入ると、ぼんやりと霧のようなものがかかっている。物凄いスモークだ。ステージ上には、巨大な卵が。自分は早速シャツを脱いで、『The Barn』ツアーのTシャツ姿となる。
ステージ上の卵にライトがあたり、スポットがセンターに当たると、佐野元春が浮き上がった。赤いシャツに黒のパンツ、サングラスをしていて、髭はないもよう(註:アルバム『Stones and Eggs』プロモーションの時には、ぽやぽやした無精髭があったのだ。渋谷陽一に「それはない」と指摘されて、ツアーではやめた模様。)。もちろん、フェンダーを抱えている。会場は早速総立ち状態だ。オープニングナンバーは、「メッセージ」である。この曲をオープニングに持ってくるとは、さすがである。アルバムではシングルカットもされてなくて、ちょっとすると聴き逃してしまいがちなナンバーではあるが、初期の疾走感が溢れている。やがてスモークの中から、バンドのメンバーが見えるようになる。
曲のつなぎには、打ち込み音が多用され、この合間に、キーボードのKyonが元春の右側に並ぶ。もうひとりのギター、佐橋佳幸は元春の左側に位置し、二人で主役を挟むように強烈にサポートするのだ。この打ち込み音、会場のファンにビートをもたらす効果があったと見え、早くも熱狂的な感じが漂ってきた。会場のライティングもすばらしく、『The Barn』の時とは、180度違ったアプローチに、早くもうれしい誤算を見せつけてくれた。曲は、「C'mon」
続いて曲は、「エンジェル・フライ」。Kyonは、キーボードに戻り、ローディがパーカッションを叩いた。このツアーには、西本明が参加していないので、Kyonはとても忙しそうである。佐野元春の公式Webページのライブレポートによると、一部のファンは声の出具合を気にしているようである。しかし、ここまでの間に不安定さを感じることはなかった。『The Barn』ツアーの時にあったような、ハウリングがなく、非常にバランスの取れた演奏である。おそらく何度もリハーサルを行ったことであろう。
「大阪のファン、今晩は」これがファンに向けられたはじめての一言である。「昨年のここでの演奏、あれがファイナルになるはずだったんだけど、すばらしい演奏ができた。今夜もすばらしい夜にしよう」もちろん、覚えているさ。あの時はウッドストックからのゲストとのすばらしい演奏に加え、The Hobo King Bandの持てる実力を出しきったものでもあったさ。そこに対等に位置していたのが、佐野元春、君だった。しかし、今夜はもちろんThe Hobo King Bandもすばらしいが、君こそ本来のあるべき姿に戻ってきたような感じがするんだ。それこそ、君が主役ってことだ。
口ずさみやすいメロディ、「だいじょうぶ、と彼女は言った」。Kyonがアコーディオンを手に取る。そして、再びの打ち込み音。この間に、Kyonは、キーボードの位置に戻り、「99 Blues」だ。これまたごきげんなヒップホップなのだが、アレンジがジャジーで、かえって新鮮に聞こえる。途中、Kyonと、佐橋佳幸のソロがあったが、佐橋は弦を切ってしまったようで、この曲の間に2回もギターを取り替えた。井上富雄と小田原豊のリズムセクションは、忠実に裏方に徹している感じだ。しかし、トミーの足元になぜか絨毯が敷かれてあったのはなんだったんだろう。
続いての「約束の橋」で、会場の盛り上がりは頂点に達したようだ。元春の声の出具合だが、こうした昔の曲をやるときには何の違和感もない。とてもよく伸びているように思った。『The Barn』と『Stones & Eggs』では、裏声を多用するので、本来の音域とは違うため、そうした不安感が続出するようなのだが、ここに来てそうしたものを払拭するように元春がシャウトしている。
バックにあった卵が消えて、ひびの入った石のような飾りが現れた。「ハートビート」。これも新アレンジで、まさかこの曲が聴けるとは思わなかった。そして、元春はギターを外して、ヴォーカルに専念。「彼女の隣人」。これには会場もしんとなる。ヴォーカルの音圧が凄いのだ。続いて、ギターを再び抱えての「No surprise at all-驚くに値しない」。ここではじめて佐橋佳幸がコーラスに加わる。コロちゃんのコーラスは、なかなか元春とシンクロしていて気持ちいい。ここでの新発見は、おそらく元春がギターソロを弾いていたこと。というのも、本来佐橋のパートなのだろうが、その時スポットが佐橋に当たらなかったからである。元春にもスポットが当たらなかったので、よくはわからないのだが、今後注目してみたいと思う。
再びの打ち込み音。元春はギターをまた外す。Kyonが、またしてもギターを抱え、「Complication Shakedown」である。またしても、このような曲がここで繰り広げられるとは。もっとも、ニューアルバムでヒップホップやラップに再び挑んでいる元春としては、この国にはじめてこれらのスタイルを持ち込んだ先駆者として、こうした曲をつなげるのは当然なのであろう。導入部や、曲のブレイク部分では、打ち込み音も使用されているが、大部分は、The Hobo King Bandが生音で演奏しているのだから、最近のヒップホップ諸氏は、少しは見習った方がいいと思う。ここでは、変にDJがいないことが成功していると思う。続いて、アルバムオープニングナンバーの、「GO4」だ。佐橋のギターが、うなりをあげてブレイクビーツに挑んでいる。Kyonはまたしてもキーボードの位置に復帰。これはやはり、生音でできることはできるだけ再現しようという心意気なんだろう。元春が再びギターを手にして、「New Age」が始まった。今度のヴァージョンは、『No Damege2』に収められていたものに近い。このツアーでの昔の曲の演奏は、前のツアーの時の「僕のクラシック曲」とは様相を変え、ヒップホップをベースにした選曲である。そうした最近ではほとんど演奏されることのなくなった曲が蘇り、これほど嬉しいファンサービスもなかっただろう。
「西本明君は、おうちでお休みです。でも、心配ない。今頃…(パンを食べる仕草)…元気にしているよ」こんなMCで始まった、「Rock & Roll Night」、イントロは西本明ではないが、Kyonが忠実に再現している。後半のサビ部分は、会場のファンのコーラスでヴォーカルがかき消されるくらいである。それにしても照明のすばらしさ。光のイリュージョンがとても綺麗である。そして、「悲しきRadio」。これまた、Kyonがひとりで二人分のパートを弾きこなす。一番の盛り上がりは、曲がスローになり、元春がパントマイム入りで歌う部分なのはいうまでもない。
そして、また打ち込み音。はじめはどの曲かわからなかったのだが、「スターダスト・キッズ」「Wild Hearts」などをラップで歌っているのであった。ここまで壊されるとなかなか凄いではないか。後半は、会場に「シャララ」のコーラスを要求するいつものもの。そのまま、「I Love You, You Love Me」へとなだれ込む。そして、「アンジェリーナ」で締める。今回は冷静に見守るつもりだったが、サビ部分は、いつしか一緒に叫んでいたものだ。
一度退場する、元春とバンドメンバー。アンコールの要求をしつつ、隣のJUNTY氏と会話。「今日は声も出ているし、動きもいいですね」「僕は打ち込み使っているのがいかしていると思いますよ」そうしているうちに、黒のTシャツ姿になった元春とThe Hobo King Bandが登場。やたらとアコースティックギターが目に付き、井上富雄は、スタンド型のベースで、小田原豊はボンゴの前に。なんと、「Young Forever」のアコースティック・ヴァージョンなのだ。シングル「Doctor」のカップリングでは、聴いたことがあるのだが、もちろんライヴでは初めて聴く。しかし、待たされ続けたファンは、サビを大きく歌ってしまうのだ。もっとじっくりと聴きたいというのが本音なのだが。
続いて、バンドメンバーは本来のセットに戻り、元春はヴォーカルのみで、「Individualist」を。ホーンが入ってなくても、この曲をやるとは。それなりに違和感なく楽しめる。元春も曲のブレイク部分では、小田原が叩いていたボンゴを叩いているではないか。もともとスカのようなアレンジの曲だが、それがさらに強くなったような演奏。元春も乗ってきたのか、「もう1曲行こう」ということで、お馴染みストラトキャスターを再び手にして、「ダウンタウン・ボーイ」を。ここで再び退場となる。
3度目となる登場は、少し時間がかかった。元春はブルー系のTシャツに着替えている。曲は「ガラスのジェネレーション」普段ならば、元春がキーボードを演奏するはずだが、ギターのままである。自分も「つまらない大人にはなりたくない」というフレーズを一緒にシャウト。まあ、もちろん大人なのだが、これは普通のやつでいたくないということであると信じる。
「みんなに歌ってもらいたい曲が1つある。もう、20年間歌ってきたこの曲だ」ということで、心おきなく歌わせてもらったのが、「Someday」だ。もちろん会場中が大合唱。もう、耳を澄ませても元春の声は聞こえることはなかった。ダディ柴田のパートは、元春がハープでやる。もう、佐野元春には、ハートランドもTokyo Be-Bopも必要としないかのようだ。すべてはひとりで乗り越えてきたという自信がここ90年代の最後に来てあらわになったということなのかもしれない。
最後はメンバー紹介で締めくくる。西本明抜きのThe Hobo King Bandだったが、小田原豊の時、本人に何を確かめたのだろうか。名前だったりして。そして、マニピュレーターの鈴木クラゲ氏も紹介するあたりが元春らしくていい。確かに彼なくしては、この演奏が成立しなかったのだから。それにしても、「99 Blues」がかかった瞬間、身体が反応したのか、鳥肌が立った。この鳥肌状態には何度も襲われることとなったのである。しかし、2公演目でこれほどやっていいのか。このノリがファイナルではどう進化することか、見届けていきたいと思っている。

<Set List>
(1) メッセージ (2) C'mon (3) エンジェル・フライ (4) だいじょうぶ、と彼女は言った (5) 99 Blues (6) 約束の橋 (7) Heart Beat(小さなカサノバと街のナイチンゲールのバラッド) (8) 彼女の隣人 (9) No surprise at all-驚くに値しない (10) Complication Shakedown (11) GO4 (12) New Age (13) Rock & Roll Night (14) 悲しきRadio (15) ヒップホップメドレー (16) アンジェリーナ (17) Young Forever<acoustic version> (18) Individualist (19) Down Town Boy (20) ガラスのジェネレーション (21) Someday

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