佐野元春 & The Hobo King Band The Barn Tour 神奈川県民ホール 1998/04/14

このライヴは、佐野元春がインフルエンザでダウンしたため、延期になったものであった。本来は、大阪公演が、ツアーのファイナルにあたり、特別ゲストとして、『The Barn』制作のプロデューサー、ジョン・サイモンと参加ミュージシャンのガース・ハドソン(ex The Band)が呼ばれるという特別なものに当たっていたのだが、延期となったこの公演が実質的なファイナルとなったものである。
会場の入りは、延期と平日、悪天候ということもあってか、7割くらいか。今回は、3階席の右端に近く、4席並んだこの列には、他にひとりしかいない。
いつもと同じように、アナログレコードの「逃亡アルマジロのテーマ」がローディによってかけられた。途中、やはり針飛びが起こる。このアナログプレイヤーもHKBとともに旅をしてきたためか、いささかくたびれてきたのであろうか。それでも具合良く針飛びして無事に演奏が終わる。(フィードバックしてばかりだと、登場できなくなってしまう(^^;)
元春ひとりだけの登場。続くメンバーはと見守るが、気配はなく、元春がアコギを抱えて「スターダスト・キッズ」を歌い始める。いや、まったく意表をつかれる展開であった。一旦大阪でチャラにしたツアーであるから、演奏曲なんかもかなり入れ替わっているとは想像していたが、これは嬉しい誤算である。次も弾き語り。元春の衣装は、大阪の時と同じく、黒いスーツに緑のシャツである。
MCも挟まずに、次も弾き語る元春。曲は「欲望」で、イントロの終了にあわせて、ステージ全体が次第に明るくなり、所定の位置に着いたバンドのメンバーが、一斉に音を重ねていく。
「今晩は、横浜!雨の中大変だったろうけど、来てくれてありがとう。みんなと一緒に素晴らしい夜にしよう!」
こうして始まった曲は、「君をさがしている」。このツアーではすでに何度か演奏されているようだが、聴くのは初めてだった。元春の音に出会ったころの感覚が蘇っていく、非常に懐かしいナンバーだ。
「インフルエンザにかかった。今日来てくれた人たちは、その時のチケットを大事に大事にして、今日までホールドしてくれたんだ。ありがとう。今日は2倍返しにするよ」
嬉しい言葉じゃないか。やってくれ、元春。
「僕は下町で生まれた。浅草あたりに行くと、僕みたいなしゃべり方をする連中がたくさんいる。でも、怖がることはない(笑)。下町について歌った曲は二つあるが、昔書いた方の曲だ。この曲は最後に『ボーイ』って…」
このあたりは、大阪の時と同じである。それにしても今夜の元春は早くも飛ばしまくっているみたいだ。
「今夜は少ししゃべりすぎたかな。でも、時間はたっぷりとある」
演奏中も、舞台で膝スライディングをする。いよいよ元春が疾走し始めた。
『フルーツ』からのメドレーのあと、『The Barn』のコーナーへ。
「今日が本当のファイナルだ。元々は、大阪かどこかの街でファイナルを迎えるはずだった。でも、事情が変わった」
大阪の盛り上がりはなんだったのだろう。でも、元春は、喋っていくうちに、「自分でも何だかわからなくなってしまうときがあるんだ」とも証言している。この時は、まさにトランス状態にあったのだろう。それだけに、今夜の元春には期待できる。
「7日じゃたりない」での、Kyonの動きには、目を見張るものがあった。まず、アコーディオンを抱えつつ、右側のエレピで演奏。さらに、アコーディオンソロ。最後は、中央のエレピに移動という「色々な楽器状態」。実は、この時元春は途中で歌に入るのに遅れてしまったのだが、HKBが余計にワンフレーズ演奏してカバーするという凄さを見せつけていた。この部分は、聴衆もあまり気がつかなかったのではないだろうか。
そして、おきまりの…「この中にインフルエンザにかかった人はいるかな?頭おかしくなった人はいるかな?」の問いかけだが、客層がおとなしいのだろうか。ほとんど手を挙げる人がいない。
この曲のエンディングはさらにアレンジを変えていて、元春の合図にあわせて、「ジャン」と音をストップするのなのだが、ファンサービス旺盛に、これを何度も繰り返し、最後はセンパイ(西本明)が、止め終わってからオルガンを鳴らすというコミカルなシーンを見せつけてくれた。HKBの隠れたスター、西本明もエンターティナーぶりが板に付いてきたようである。
続く「ドライブ」では、元春が最初のフレーズをオルガンで弾いて、前にでてくる。なぜか「種まき」の仕種はなかったが、エンディングの「糸巻き」は健在であった。ここでのアレンジも少し変えてあり、アニキ(小田原豊)のドラミングなどは、親の敵でもとろうかという必死の形相であった。
「どこにでもいる娘」は、センパイのオルガンソロから。今回はバックに効果音入りである。こういうヴァージョンも悪くないと思う。
Kyonがギターを手にして、「Young Forever」で、第一部終了。
この時すでに時刻は9時近く。隣の人は帰ったようだ。客席ではアンコールを促す拍手が鳴り続いている。それもリズムを変えて、止むことなく鳴り続いている。それがやがてウェーブを巻き起こした。おとなしかった横浜のファンも、ここに来ていい意味で切れてきたようだった。
黒いジーンズと同色のTシャツに衣装替えした元春が登場。コロちゃん(佐橋佳幸)は、やはり色違いの縦縞ジャケットだ。そうして始まったのが、「ガラスのジェネレーション」。一度切れだした横浜の人たちも、これを待っていたかのように総立ちになる。続いて「約束の橋」が終わり、客電がつき、なぜかHKBは、左右に散って退場。再びアンコールの拍手。ローディが楽器の音声チェックをしていたので、これはまだ時間があると読む。
その通り、ギターを抱えて元春が登場。
「今夜は湿度があるから、暑いだろう。もっともっと熱くなろう」
そしてもうひとつの下町の歌「水上バスに乗って」が始まった。この後、「ポップチルドレン」でまた退場。時刻はすでに9時半である。それでも再び音声チェックをやっているからには、まだあるんだろう。
Kyonがマンドリンを抱えて登場。曲は、「ぼくは大人になった」。大阪では、「ガラスのジェネレーション」と対になって歌われた曲である。ここで曲の合間にメンバー紹介。紹介されたメンバーは、ソロをやり続ける。Kyonは、やはりマンドリンを抱えてのダック・ウォーク。そして、元春のソロは、ハーモニカである。実は、ハーモニカを使う「Rock'n Roll Heart」のあたりからややハウリングが起き始めていたのだが、元春はハウリングどこ吹く風で、ソロのパートをひたすら吹き続けている。最後は膝スライディング状態での熱演だ。
「みんな、一緒に歌おう!いろんなところでみんなと歌ってきた曲がひとつだけある!」
そして、西本明のエレピからは懐かしいあのイントロが!ホントに嬉しかった。歌いながら涙が出てきた。あれだけおとなしかった会場の連中も、この曲には、無条件でフレーズを口にするようだ。ダディのサックスのパートは、元春のハーモニカだ。「Someday」本当に素晴らしかった。眼のあたりを何度も拭う。HKBでのこの曲、人によってはまだ違和感があるという。しかし、筆者はこの演奏を聴いて、HKBがこの曲をしっかりと自分のものにしているのと、ハートランド以上に元春としっくりうまくいっていることを実感した。もはや、このバンドはブラスセクションがなくとも、曲の持っているメッセージや、エモーショナルな部分を再現できるところまでいっているのだ。
この演奏が終わって、帰り支度を始める人が何人もいた。しかし、HKBはもう誰にも止められなかった。さらに「悲しきRadio」になだれ込む。このヴァージョンは、ライヴだと生き生きしてくる。「♪昨日買ったばかりのRed Low Heal Pamps」では、足を高くあげたりもする。
またもや短いインターバルを挟み、何度目の登場となるのだろうか、「So Young」にあわせたメンバー紹介。ハートランド時代からのメンバーの指差し健在である。大阪に続いて、Kyonが、
「そして最後に…!そして最後に…!!そして最後に…!!!M・O・T・O。俺たちの前に!元春!元春!佐野元春!」
と紹介。
「みんな、バンドもローディも舞台の連中も、男ばかりだ。何かが足りない。これから僕がみんなのところに降りて、探してくる」
と言い残し、最前列の女性ファンを舞台に引っ張り上げる。打ち合わせを簡単に済ませ、この人に、「1・2・3・4」のカウントをさせて、「彼女はデリケート」へ。水色のサテン地のシャツの彼女、一生の想い出だろうなあ。
HKBになってから、元春のマスコミでの扱われ方にやや不満がある。しかし、舞台上では、そんなところで修行したからか、かなり客席とのやりとりにも進歩が見られるようだ。
それは、インフルエンザの話を取り入れた、"I Love You"と"You Love Me"のところで起きた。"I Love You"の反対はというところで、答えを叫んでしまう奴がいたのだ。しかし、
「本当にそう思うか。ある人は、"I Love You"の反対は、"I ブラ You"と言ったんだ。その人は、HKBのKyonっていう人だ(笑)」
というやりとりがとっさにでるのだから。Kyonは、この日持ち込んだ「アルマジロ」を鳴らして、苦笑である。
すべての曲が終わった。拍手が鳴り続けている。元春とHKBも、ステージの中央で手をつないでのカーテンコールに答えている。すべてが終わった。もう、ローディが手で×印を出している。
そして、マイクが客席に向けられ、何もかもが終わった。
終了時間は、22:30。3時間半に及ぶ物凄いライヴだった。僕はこの夜の出来事を一生忘れないだろう。
評価★★★★+1/2★

Set List
(1) 逃亡アルマジロのテーマ(レコード) (2)スターダスト・キッズ (3) ジュジュ (4) 欲望 (5) 君をさがしている(朝が来るまで) (6) ダウンタウン・ボーイ (7) 太陽だけが見えている-子供たちは大丈夫 (8) 霧の中のダライラマ(short version) (9) そこにいてくれてありがとう(short version) (10) Rock'n Roll Heart (11) 7日じゃたりない (12) Doctor (13) ドライブ (14) マナサス (15) 誰も気にしちゃいない (16) どこにでもいる娘 (17) ヘイ・ラ・ラ (18) 風の手のひらの上 (19) Young Forever
<encore> (20) ガラスのジェネレーション (21) 約束の橋 (22) 水上バスに乗って (23) ポップチルドレン(最新マシンを手にした陽気な子供たち) (24) ぼくは大人になった (25) Someday (26) 悲しきRadio (27) So Young(short version) (28) 彼女はデリケート(short version) (29) アンジェリーナ (30) Dance With Me/I Love You, You Love Me
とうとう、リバーシブルの革ジャケットをゲットしました。1会場限定4着。

リバーシブルジャケット

1998年のこのライヴ、実に充実した時間でした。今まで聴いてきた元春のライヴの中でも、自分の中では、ナンバーワンのものだったと思います。それにしても、会場が横浜ということもあり、最後まで残れなかった人がいたことには、残念でしょうが、その点自分もラッキーだったと思いますね。

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