Time Out !/佐野元春 with The Heartland

Time Out!

01 ぼくは大人になった(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
02 クエスチョンズ(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
03 君を待っている(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
04 ジャスミンガール(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
05 サニーデイ(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
06 夏の地球(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
07 ビッグタイム(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
08 彼女が自由に踊るとき(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
09 恋する男(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
10 ガンボ(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
11 空よりも高く(佐野元春/佐野元春/佐野元春)

Produce:佐野元春/Colin Fairley(Track3:吉野金次)
1990年11月9日発売
ESCB1111

時代背景

佐野元春としては、異例の約1年というインターバルで発表された、7枚目のアルバム。90年代最初の作品である。The HeartlandとTokyo Be-Bopを全面的にフィーチャーして収録されたが、ミックスダウンは、イギリスで行われ、前作と同じくColin Fairleyが共同プロデュースを行っている。アルバムジャケットは、モノクロームに少しだけ色を付けた、佐野元春の顔を正面からとらえたものである。その雰囲気がアルバム全体にも伝わっているようで、感じとしてはセピア色のモノローグで包み込まれているようである。またこれは、ダウナーな印象のあるアルバムである。それは、時期を同じくして起こっていく、佐野家の問題にも通じそうなのだが、これは全くの個人的見解である。
なお、アルバムのクレジットには、アレンジャー名がないが、間違いなく、佐野元春自身によるものである。また、この時期のThe Heartlandには、西本明が抜けていて、古田たかし(D)、小野田清文(B)、長田進(G)、阿部吉剛(K)というラインナップである。
アルバムタイトルだが、ロンドンの雑誌から取っている。しかし、最後に、感嘆符をつけることによって、少し元気を出したということが伝えられている。また、アルバムクレジットは、佐野元春単独ではなく、「佐野元春 with The Heartland」名義である。これは、ライヴアルバムを除いて、最初で最後であった。

楽曲解説

ぼくは大人になった
ビートの効いた、印象的なフレーズ。まさに佐野元春の真骨頂。歌詞には、タイトルの文句はまったく出てこないのだが、「ガラスのジェネレーション」の印象的なフレーズ「つまらない大人にはなりたくない」を否定するようなもの。しかし、この時の佐野元春は、すでに、34歳である。また、「ガラスのジェネレーション」では「大人にはなりたくない」のではなく、「つまらない大人」にはなりたくないと宣言するのであると思う。よってここのロジックの食い違いは亡いと筆者は考えるのだが。なお、この曲は、アルバムに先駆けて、シングルとしてリリースしている。
クエスチョンズ
アップテンポな、マイナーコード。昔のように、ひとつのフレーズの中に、マシンガンのように言葉を詰め込んでいくという、スタイルではないものの、これをさらに洗練したような、感じであり、十分にかっこいい。
君を待っている
一転して穏やかな曲である。オーケストラがフィーチャーされている。走り続けてきた、佐野元春がようやく一息ついたというような感じなのだろうか。
ジャスミンガール
アルバムから先駆けること、半年前のシングルである。ただし、そちらはシングルヴァージョン。アルバム中の落ち着いたというか、ダウナーな感じとはやや違って、ポップな曲である。とはいえ、佐野元春の中ではおとなしめのものではあるが。とはいえ、佐野元春独特の旋律の上下があまりない、ヴォーカルスタイル。これは簡単そうでいて、なかなかポップにはならず、相当なテクニックがいるはず。また、間奏部分で佐野元春のブルースハープを聴くことができる。これをフィーチャーしたのも、実に久しぶりというか、楽曲では初めてなのではないだろうか。(ライヴビデオなどでは「Heart Beat」などで長いソロを吹いているのが確認できるが。)
サニーデイ
少しおどけたような印象のある曲。全面的に、Tokyo Be-Bop(Sax:ダディ柴田/Trombone:ボーン助谷/Trumpet:石垣三十郎)がフィーチャーされていて、その分引き締まっている。もはや、現在のThe Hobo King Bandでは、演奏できないような雰囲気を持つ曲のひとつである。「僕は行く/先に僕は行く」というフレーズのあとに、歌詞カードにはない、「ごめんね」という叫びも入っている。
夏の地球
アルバム中で、最も、暗い感じのする曲なのではなかろうか。何とも、この当時の佐野元春のダウナーな感じを表してもいよう。フレーズの途中に挟まれる、佐野元春のシャウトとまでは行かない、声は、まるで心の中から絞り出すような感じでもある。
ビッグタイム
今までの佐野元春にはなかったような作風。ミディアムテンポのメロディライン(ともいえないものだが)に淡々とした佐野元春のヴォーカルが乗り、Tokyo Be-Bopのブラスが被さる。サビの部分で初めて、メロディらしいものが登場する。
彼女が自由に踊るとき
作風としては、ひとつ前の「ビッグタイム」の延長上にありそうだ。風景描写のような前半のフレーズは、佐野元春がセンテンスを区切るようにして歌う。後半の、展開はほとんど誰にも真似できないような感じ。見事である。
恋する男
「ジャスミンガール」と並ぶ、ポップな方の曲のひとつ。後に、野茂英雄が出演する生命保険のCMで使われたはず。野茂は、近鉄時代から佐野元春の曲が好きで、コンサートにも足を運んだらしい。その後、近鉄投手陣はほとんどが佐野ファンになっていったらしいのだが、そのことを知った佐野とは交流が生まれ、野茂が渡米後にそのCMが作られている。
ガンボ
かなりおどけた印象の曲。途中で入る、"C'est la vie"というフレーズは、「あるがまま」「なるようになる」のような意味で、このフレーズに、東京下町出身の佐野元春はいたく触発されたらしい。江戸弁でいう、「なるがままよ」ということらしい。また、パーティを意識した乱痴気騒ぎのようなものをThe Heartlandの面々に演じてもらっているが、ラストでその後ろで、佐野元春自身が「誰かここから救い出してくれ」みたいに叫んでいる。
空よりも高く
この曲のみ、西本明のピアノがフィーチャーされている。副題は、「Home」。以前は、街のノイズを嗅ぎ回ることに終始していたのだが、「うちに帰ろう」と締めくくっている。これはまったく、個人的な内省的な事柄なのだが、佐野家に起こっていく、エピソードが佐野元春をまったくダウナーな方向へと導いていったことの現れであろう。

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