01 ナポレオンフィッシュと泳ぐ日(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
02 陽気にいこうぜ(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
03 雨の日のバタフライ(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
04 ボリビア−野性的で冴えてる連中(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
05 おれは最低(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
06 ブルーの見解(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
07 ジュジュ(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
08 約束の橋(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
09 愛のシステム(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
10 雪−ああ世界は美しい(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
11 新しい航海(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
12 シティチャイルド(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
13 ふたりの理由(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
Produce:佐野元春/Colin Fairley
1989年6月1日発売
ESCB1326
時代背景
この前に、ライヴアルバムの『The Heartland』をリリースしているが、オリジナルとしては前作から約3年ぶりのアルバム。そして、80年代最後のアルバムで、筆者もCDとして購入している。The Heartlandとの活動はまだまだ蜜月時代にあったものだが、ここでは佐野元春はイギリスに渡り、現地のプロデューサーと、現地のミュージシャンとのセッションをしていて、まだまだ冒険的である。ミュージシャンは、エルビス・コステロやグレアム・パーカーのバックをつとめたイギリス人を起用している。そうした、ハード面とは別に、佐野元春として初めて日本語のアルバムタイトルであり、曲名にも限りなく日本語を使用している。そればかりではなく、曲中にも、英語のフレーズをできる限り排除していて、佐野元春としてもこれから立ち向かっていく、90年代に向けての実験的な作品となったのではなかろうか。
楽曲解説
- ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
- オープニングは、ブラスが力強いこの曲から。アルバムには、ミュージシャンのクレジットが、全体のものと、その曲だけのものなどがあるのだが、ここでは、ブラス隊については、サックスソロの、ダディのみが記されている。間違いなく、Tokyo Be-Bopによるものだと思うが。それはともかく、この力強さから、初のCDフォーマット上となったアルバムでも、その長さにも関わらず、ぐいぐいと引き込まれてしまうように感じるのだ。
- 陽気に行こうぜ
- 佐野元春がビート詩人の影響を受けているのはもうかなり有名になっていることだが、この曲も、メロディ部分は、ほとんど単調である。しかし、それを言葉の持つエネルギーと、バックのバンドのサウンドで生き生きと跳ねているではないか。「俺はくたばりはしない」という、メッセージがびんびんと伝わってくる。89年という時点で、佐野元春というミュージシャンの立場もやや曖昧になりかけている部分もあったようだが、見事にアルバムはヒットし、佐野元春を再びトップシーンへと、導くものとなっている。
- 雨の日のバタフライ
- それにしても今聴き返してみると、とんでもなく、ポップである。しかも、実に洗練されていて、21世紀に入った今でも、十分に恥ずかしくない曲である。最近の元春が、やや方向性を失ってしまっているように感じているのは、筆者だけではあるまい。このあたりの時期の作品が、やはり一番脂がのりきっていた頃のようにも思うのだが。
- ボリビア−野性的で冴えてる連中
- 「実はこれはドラッグを歌ったもの」と佐野元春はインタビュー(「時代をノックする音」山下柚実)で答えている。そうしたイメージがなかった元春だけに、いささか衝撃でもあるが、ドラッグ賛成論者というわけでもなく、こういったものも伝えたかったのだろう。おそらくニューヨーク生活で築いた人脈からこうしたイメージを作り上げたものといえよう。「マリンバの音」とはそれをやると頭の周囲に聞こえてくるとのこと。
- おれは最低
- 今までのイメージをぶちこわしたくて、作った曲らしい。街の風景を曲のあちこちにちりばめて、それを「彼」や「彼女」に語らせることによって曲作りをしてきたものを、一人称で語り、自分は「街の聖者」ではなくこういった面もあるんだよと初めて告白したような曲である。
- ブルーの見解
- 穏やかなポエトリー・リーディング。それまで、「リアルな現実 本気の現実」がシングルとなったことはあるが、ポエトリー・リーディングがアルバムに収録されたことは初めてである。その穏やかそうな語り口とは違い、内容は辛辣。果たして、元春に忠実について来た者に対するものなのか、元春フォロワーのミュージシャンに対するものなのか、ファンに対するものなのか、いまもって不明である。最後にドアが閉まる音がするが、「これは誰かが怒って出ていった音だと思う」とのコメント。
- ジュジュ
- 佐野元春はこれまでの5枚のオリジナルアルバムをLPレコードというフォーマット上で再現するために、リスナーとしての気持ちを汲んで曲順などを構成していたらしい。しかし、このアルバムから、当然CDというフォーマットに対応するために、曲順攻勢などもある程度変更するようにしたらしい。従って、このアルバムでのややネガティブな曲が続くところで、このようなポップソングも入れるようにしたらしい。曲も、ジュジュという彼女の日常を第三者的な立場に立って、綴っていく佐野元春としてのかつての常套手段が取り入れられている。『G*R*A*S*S』という、アニバーサリーエディション第2弾では、別テイクの「ジュジュ」を聴くことができる。もちろん、こちらがオリジナル。
- 約束の橋
- オリコンシングルチャート第4位まで上がった、2001年現在での彼の最大のヒット曲がこれ。曲は、ドラマで使用されたのだが、そちらシングルヴァージョンとはこちらは違う。また、この後、『No Damage 2』でも、別テイクが使用されている。最近のライヴでは、イントロのところで、聴衆が「ヘイ!ヘイ!」と拳をあげて呼応するような力強い何かに溢れたような感じに作り上げられている。
- 愛のシステム
- 試験管ベビーのニュースに触発されて作った曲。それは、「♪愛はフラスコの中」というフレーズに凝縮されているのだが。今や、試験管ベビーどころではなく、代理母、遺伝子組み替えまでに話が及んでいるのが、ここ10年のディケイドの格差か。ところで、この頃のDVDを見ると、この曲で元春は、ギターのネックを左手を上から回してコードを押さえるという、少し変わった演奏を行っている。
- 雪−ああ世界は美しい
- アルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』のコンセプトとして、極力英語を排除して、日本語でなおかつシンプルな作詞を心がけるというものがあるが、まるで「小学生の作文」(本人談)のようなフレーズで始まる。しかし、こうしたものも、佐野元春にかかると、自然に違和感なく聴けてしまうから不思議だ。また、この曲だけは、日本で雪が降るイメージを表現したいために、イギリス人ミュージシャンではなく、The Heartlandが全面録音している。
- 新しい航海
- ミディアムテンポの、ゆったりした曲。曲中に、ティンカーベルのような鐘の音が効果的に使われている。また、サックスのと絡みも何ともいえない。佐野元春のキーワードのひとつともいえる、「ガレキ」という言葉も、ある。
- シティチャイルド
- こちらはアップテンポの曲。子供の心を投影した作品なのだろうが、第三者とはいえ、それまであまり心の内面を歌った曲はなかったように思うのだが。元々、「つまらない大人になりたくない」というフレーズで、ティーンエイジャーの気持ちを代弁した佐野元春であったが、この時点で30代中盤にさしかかろうとしている。シティチャイルドとはいえ、いささか老成しているような気もするのだが。
- ふたりの理由
- 前半がポエトリー・リーディング。サビの部分のみが、メロディが付いている。それにしても、元春の語りというものが、これほどかっこいいものであるということが、どれだけ認識されていたことだろうか。「Electric Garden」や、「リアルな現実 本気の現実」をなどはあったものの、これまでオリジナルアルバム内で、このようなタイプの曲が収録されたことはなかったのだが、「ブルーの見解」とともに、佐野元春のもうひとつの面をファンに提示した初めてのものではなかったか。バックの演奏がとても美しい。