Visitors/佐野元春

Visitors

01 Complication Shakedown(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
02 Tonight(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
03 Wild On The Street(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
04 Sunday Morning Blue(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
05 Visitors(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
06 Shame-君を汚したのは誰(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
07 Come Shining(佐野元春/佐野元春/佐野元春)
08 New Age(佐野元春/佐野元春/佐野元春)

Produce:佐野元春
ESCB1324
1984年5月21日発売

時代背景

前年から、すべてをなげうって、ニューヨークで生活を始めた佐野元春。その1年間に、吸収した、ヒップホップカルチャーと、ラップという表現手段を、手みやげに帰国した彼を迎えたのは、賛否両論の嵐であった。なんといっても、アルバム『Someday』で、時代が彼に追いつき、上げ潮ムードに乗るかと思われた時期に、突然の渡米。その間、待たされたファンたちは、ベストアルバムともいえる、『No Damege-ありふれた14のチャイムたち』を聴いて、それをしのいだのである。事実、これはオリコンのアルバムチャート、1位に輝き、まだまだ佐野元春が、輝きを失っていないことを示したものである。
先行シングルの、「Tonight」に関しては、それまでの佐野元春の楽曲とそれほどの違和感がなかったものの、アルバムが出てからは、非難も相次ぐ。まったく、それまでの佐野元春らしさが感じられなかったためでもある。アルバムは、The Heartlandではなく、渡米して交流を深めた、ミュージシャンとのコラボレートによっている。また、このアルバムの表現方法も、佐野元春がやってみたかったこともあるのだろうが、彼がメジャーシーンに躍り上がることによって、職業作家たちから、彼のスタイルを真似されるのを嫌った上で到達したものであるともいえるのだ。
もちろん、ラップや、ヒップホップは、彼が最初に生み出したものではないが、これを初めて日本のメジャーシーンに送り込んだことは、非常に意味があることである。

楽曲解説

Complication Shakedown
オープニングナンバーは、なんとも聞き慣れない言葉。歌詞カードには、このタイトルについて注釈が付いているほどだ。とはいえ、ニューヨークで生活していた佐野元春にとっては、「Complication」という言葉が日常的に使われていたそうで、本人はそれほどの違和感はなかったらしい。やはり、普通の人とは感覚が違っている。それはともかく、強めのベースラインから始まるこの曲、日本で初めてかかるまともな日米合作のラップなのである。佐野元春とラップというと、それまでのイメージからするとギャップがあるものだが、メロディよりもビート重視の佐野元春であるから、比較的すんなりと入っていくことができたのではないだろうか。セカンドシングルとして、7inchと12inchの2ヴァージョンがリリースされている。
Tonight
アルバム発売に先立つ、先行シングルがこの曲。こちらも同時に12inchヴァージョンが存在する。また、MTVの台頭によって、ビデオクリップも制作されている。このこと自体も、佐野元春の先見性を示すものだ。おそらく日本初である。楽曲自体は、デビューからアルバム『Someday』に至る延長線上にあるようなタイプである。元春の帰国を待ちわびていたファンは、いったんこれを聴いて胸をなで下ろしただろうが…。
Wild On The Street
こちらは、「Complication Shakedown」のB面曲。12inchヴァージョンもあり、非常にカッコイイ。こちらはラップと言うより、ビートそのものだ。音階などはまるでなし。言葉を叩きつけるように佐野元春がシャウトしている。ところで、このアルバムには、日本語詞と英語詞があり、実際に歌われているのは、これをミックスしたものだ。元々佐野元春には、何音節で言葉を並べていくという面は少なく、多少の字余りでも強引に小節の中に言葉を詰め込んでいく傾向がある。つまり日本語をビートで表現しようとしたものだが、字面だけ見ると非常に散文的であるにもかかわらず、これが見事に決まっているのが、この曲といえよう。
Sunday Morning Blue
第3弾シングル「Visitors」のB面曲。こちらは通常の7inchのみである。アルバム中唯一のバラード系(と言ってもいい)。この曲でヒップホップカルチャーショックから立ち直る元春ファンも多かったのではないだろうか。この曲は現在でも人気が高いが、残念ながらあまりライヴで歌われたことはないようだ。歌詞内の「サンデイペーパー」というところに、「ニューヨークタイムズの日曜版」と注釈がついているところが、時代を感じさせる。
Visitors
先述の通りの第3弾シングル。メロディ自体はワンコードでOKみたいな曲だ。とはいえ、こちらは「Wild On The Street」みたいに、ビートで持っていく曲ではなく、むしろ単調なフレーズの繰り返し。Aメロ、Bメロ、サビなども特になく、最後のワンフレーズ、「♪This is a story about you」を言いたいが故の前振りみたいだ。自分ならば、AB面を取り替えてリリースするだろうが、そうならないところが佐野元春。なぜならば、これはニューヨークのことが歌われているからだろう。アルバム歌詞カード内の冒頭にある、「N.Y.C 1983〜1984」という長編詩、この最後の一部が「Visitors」に使われている。間奏部分などは、カッコイイので、あまり目立たないが曲を解剖していくとこういうところが見えてくる。
Shame-君を汚したのは誰
ファーストシングル「Tonight」のB面曲。ちなみに、12inchではカップリングになっていない。アルバム中唯一、起承転結があり、曲想の変わる曲である。ゆったりとしたリズムに乗せて、淡々と歌われるのだが、怒りが見えかくれする。渡米中に、佐野元春の母が入院するという事件があり、このことを巡って親戚間での対立もあった模様。おそらくこのことを歌っているのだろうが、それまでのハッピーな曲から初めて脱皮した曲といえる。
Come Shining
ヒップホップカルチャーの洗礼を受けた典型的なラップ曲。第4弾シングル、「New Age」のB面曲。こちらも、「N.Y.C 1983〜1984」の一部が流用されていて、なかなかヒップな言葉に満ちあふれている。その一部を紹介しよう。「♪たとえばチャーミングな会話だとか/メイクアップをした恋など欲しくない」「♪休みがとれるほどおだやかな世界じゃない」「♪やがて若くてきれいな君の夢も/アンティークなリズム奏で始める」などだ。ニューヨークの生活を織り込みながらも、その裏に隠された警告を忘れないシャープな感覚がこれまたいい。
New Age
先述の通りの第4弾シングル(つまりは、すべての曲がシングルカットされたことになる)。また、後のコンピレーションアルバム、『No Damage 2』では、The Heartlandの演奏で、別ヴァージョンが収録されている。近年、The Hobo King Bandになってからも、よくライヴで演奏され、新しい方のヴァージョンに近いものが聴けることが多い。

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