彩/松原みき

01 Change(大津あきら/亀井登志夫/梅垣達志)
02 トランプのお城(小泉長一郎/林哲司/林哲司)
03 予言(パンタ/濱田金吾/後藤次利)
04 サラダ★SALAD(西尾尚子/松原みき/後藤次利)
05 会えない夜には(来生えつこ/来生たかお/後藤次利)
06 10cmヒール(松原みき/松原みき/松原みき)
07 Sugar Me(小泉長一郎/佐藤準/佐藤準)
08 ひとりぼっちが楽しくて(松原みき/梅垣達志/後藤次利)
09 Bay City Romance(大津あきら/佐藤準/佐藤準)
10 ミセス(竜真知子/松原みき/松原みき)

1982年12月発売
C28A0256
Produce:菊地哲英/Yuzo Watanabe

松原みきの5枚目のアルバム。特筆されることは、クレジット上で松原みきがアレンジを担当していること。これまで、『Who are you ?』での「Who are you ?」のアレンジはあったものの、これはほとんど一人で演奏しているに他ならず、バンドを従えてのスタジオ録音でのアレンジは、初めてである。このアルバムでは、従来のDr. Strutとは一線を画し、自らのバンドShiny Stockingを中心に、一流スタジオミュージシャンを配しての録音である。ちなみに、ギター土方隆行、今剛、芳野藤丸。ベース佐藤準、後藤次利、美久月千春。ドラム山木秀夫、青山純、林立夫。キーボード井上鑑、難波弘之。パーカッションにはベッカー、斉藤ノブ、浜口茂外也。そして、もちろんサックスにはJake Conseption。にしては、やや演奏がおとなしい感じも否めない。残念なことに、楽曲ごとのクレジットが曖昧で、一括表記である。
他のアルバムよりも自作曲の比率が高い。また、唯一の日本語タイトルのアルバムである。
アルバムジャケットでは、かなり化粧が濃い松原みきがウサギの耳をつけてモノクロームで登場している。このコンセプトはよくわからないが、07のトラック「Sugar Me」の歌詞と関係しているのかどうか。とにかく、すべての曲が作詞、作曲、編曲とすべてに渡って組み合わせが違うことから、10種類の彩りがあるということなのだろうか。比較的散漫な印象のアルバムだ。内側のレコードスリーブのジャケットには、普段着の松原みきが写っていて、ややほっとするところか。

曲解説

Change
平凡に見えてなかなか難しい楽曲で、あまり亀井登志夫っぽくない。そこで登場となったのが、『Pocket Park』以来となった、梅垣達志である。ここではアレンジャーとして、無難にまとめているが、ラストのサビの部分は、転調に転調を重ねている。やはり、松原みきという歌い手はいろいろといじってみたくなるような面白さがあるのだろうか。クレジットにはないが、バックコーラスは女性、しかも、声質から推測するに、松原みきのひとり多重録音ではなさそうである。梅垣氏と夫人なのかも知れない。他には、山川恵津子の名前もある。
トランプのお城
こちらもクレジットを見て、びっくりしたのだが、作曲林哲司である。もちろん、「真夜中のドア」の作曲者で、あのスマッシュヒットに結びついたわけであるから、その時の勢いを借りてと思われがちだが、何ともおとなしい曲調。林哲司自身もこのような曲の依頼ということにびっくりしたのではなかろうか。当時目だったヒットもない、松原みきのスタッフとしては、決して藁にもすがりたいような気持ちで、依頼をしたのではないということが伺われる。このころから、飛ぶ鳥を落とす勢いとなった、林哲司だが、かねてからの才能を見込まれて、アレンジャーも引き受けている。ここでも、クレジットには出てこない女性コーラスがあるが、こちらは、EVEのような感じがする。また、林作品に欠かせない、サックスもフィーチャーされ、これは、Jake。
予言
作詞が、頭脳警察などで活躍したパンタ(中村治雄)である。この縁が元になって、パンタのソロアルバム『P.I..S.S.』では、バックコーラスとして松原みきが起用されたという。作曲は濱田金吾。こちらは、元クラフトというフォークグループ出身でその後ソロ。職業作家としては竹内まりやに「Lonely Wind」という佳作を提供している。アレンジャーも後藤次利なのだが、メンツが豪華な割には、あまりにも、土着的な感じの曲。
サラダ★SALAD
シングル「予言」のB面。個人的に思うのだが、職業作家に依頼した曲があまりぱっとしない中にあって、どことなく松原みきらしいと感じるのは、やはりこの曲が自身の作曲であるからではないだろうか。アレンジャーの後藤次利とは、『Pocket Park』以来の間柄だが、楽曲で関係するのはこのアルバムで初めてである。比較的素直なアレンジで、松原みき本人のテイストを生かそうとした仕事ぶりといえよう。
会えない夜には
来生えつこ/たかおコンビによる楽曲(「セーラー服と機関銃」が有名)で、無難なおとなしい曲。A面最後ということで、箸休めみたいな役割があるかどうか。唯一の来生家作品。
10cmヒール
すべてに渡って、松原みきが楽曲を担当する。アルバム内の他の曲と比べても遜色がないし、彼女のカラーが出ていると感じる。アレンジも任されているということは、このトラックのみバックバンドのShiny Stockingが担当している可能性は高い。ブラスは、Jakeのサックスと数原晋のトランペット。このあたりは、長年やって来ているのでおなじみといった顔ぶれ。
Sugar Me
マイナーコードであるが、松原みきの魅力がたっぷり詰まっている曲。作曲の佐藤準は丸山圭子の旦那でもあるが、林哲司が若い頃組んでいたバンドオレンジでもベーシストとして活躍している。作家としては林哲司氏とも同年代で同時期のデビューということができる。ということもあってか、比較的松原みきの美味しいところを引き出しているようだ。♪「Sugar Me、Sugar Me…」というサビの部分が印象的なベース音とともに演奏されるが、このあたりが元々ベーシストとして、やって来たものが出たようなところがあるのではなかろうか。ちなみに、オレンジは、全員がソロアルバムをリリースすることを約束されて活動したのだが、林哲司のソロプロジェクトとなってしまった一面もある。林哲司のソロデビューアルバム『ブルージェ』には、オレンジのメンバーが元になって演奏されている。佐藤準もそのような若い才能を青田買いされたという実力の持ち主である。また、歌詞に登場する「ウサギの耳」とは、アルバムジャケットのことを暗示しているに違いない。やはり、林哲司と同じような実力が買われてか、アレンジも彼に任され、これが成功している。Jakeのサックスのソロも印象的である。スキャット風の男性コーラスは、佐藤、林、比山あたりであろうか(プロデューサーのWatanabe氏も名前があるが)。ともかく、アルバム中最高のノリがあり、筆者はこれをアルバム中最高の曲と評価したい。
ひとりぼっちが楽しくて
またもや、梅垣達志氏の登場だが今度は作曲である。作詞は松原みき本人であるため、「三日月型の犬」というキーワードも歌詞としては初登場である(曲のタイトルとしては「Twinkle Twinkle Starlight-三日月型の犬をもとめて」で登場済み)。クレジットによれば、梅垣達志とMitoというおそらく奥方のコーラスもある。アレンジャーが後藤次利となった経緯はよくわからないが、コンセプト的に違う彩りを出したかったためなのだろうか。
Bay City Romance
またもや登場佐藤準氏である。当然、アレンジも佐藤準。ファルセット主体の男性コーラスが全面に渡って、繰り広げられるが、クレジットから想像するには、佐藤準、比山貴咏史(ひやまきよし)あたりであろうか。比山はユーミンなどのアルバムで男性コーラスとしてかなり起用されている。演奏的には、フュージョンの匂いがぷんぷんする。かなり長いインストゥルメンタル部分あり。終盤のサビでは、ギターソロなどもあって、このあたりは藤丸なのか、今剛なのか土方隆行なのか興味深いところ。それとともに、チョッパーベースのソロっぽい部分と並行して演奏されている。
ミセス
松原みきの作曲とアレンジ。作詞が竜真知子ということで、曲が先なのか詞が先なのか興味深い。個人的には、詞が先で松原みきが丹念に曲をあわせていったものと思う。というのも、押しも押されぬソングライターとはまだ位置づけられていないところで、ここは合わせていくというのが当たり前な感じがしたからだ。自作曲とはいえ、「10cmヒール」のような、奔放さはなく、至って普通な感じだ。また話は飛ぶが、これは「Marshia」の続編のような感じがしてならない。これまた、Shiny Stockingの演奏である可能性は高い。

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