Myself/松原みき

myself

01 バレリーナ(竜真知子/松任谷正隆/Dr.Strut)
02 三人で踊らない(小林和子/岡本一生/Dr.Strut)
03 微熱が平熱(竜真知子/岡本一生/Dr.Strut)
04 Somewhere(小泉長一郎/小田裕一郎/Dr.Strut)
05 カランドリエ(小林和子/芳野藤丸/Dr.Strut)
06 流星スウィング(小林和子/Dr.Strut/Dr.Strut)
07 See-Saw Love(小泉長一郎/佐藤健/Dr.Strut)
08 5つ数える間に(小泉長一郎/松原みき/Dr.Strut)
09 ハレーション(下田逸郎/松原みき/Dr.Strut)
10 Myself(instrumental)(松原みき/Dr.Strut)
11 Three Candles(康珍化/佐藤健/Dr.Strut)

1982年3月発売(C28A0209)
Produce:菊地哲英

松原みきの4枚目のアルバム。トラック01〜05までが、A面。以降がB面である。2003年3月現在未CD化。前作『Cupid』では、A面のみをロスに渡って、現地のフュージョンバンド、Dr.Strutとの競演を果たしたのであるが、評判がよかったのかどうか、今度は全面的にこちらで作り上げられている。アルバムのライナーにも、バンドのメンバーの写真があり(『Cupid』ではなし。)、全面的にこのバンドを基本として、作り上げられている。それは、アレンジも現地のスタジオにこもって、バンドが行っていることからも伺えよう。これに、日本人主体のホーンセクション(Trumpet:数原晋、吉田憲二/Trombone:平内保夫/Sax:ジェイク・H・コンセプション)と沖縄出身の絶妙な女性コーラス隊、EVEを付け加えているが、こちらは、あとからオーバーダビングされたものだろう。ということで、かなりお金がかかっていそうだが、この時期、海外でのレコーディングの方が、安上がりという事実もあったようだ。しかし、作られた音は一級品。作家陣から、三浦徳子の名前がなくなり、あまり今までとは違う人脈で曲が構成されているのが、弱点といえば弱点である。とはいえ、松原みきの曲も、リリースされたアルバムの中では比較的多い方であり、自分の色を強く出したアルバムか。ニューミュージックが、それまでのフォークミュージックもどきとスタイルは異にするものの、ライフスタイル自体には、それほど変わらなかったという事実を打ち消すような、ジャズやフュージョンとの融合がここでは計られていると思う。それがアルバムコンセプトなのであろう。
また、ライナーの裏側に、印刷ではあるが、松原みき自筆の長いコメントが載っている。

曲解説

バレリーナ
イントロが、やはりフュージョンしている。それも含めて、音は洗練されている。当時のニューミュージック事情であるが、アーティスト自身、あるいは、プロデューサーによほど力がない限り、そこらのスタジオミュージシャンでまかなわれるのが当たり前である。当然寄せ集めのメンバーであるから、音のグルーブ感などは、ないに等しい。よってクレジットも何もないのが普通である。が、松原みきに関しては、素材がよかったり、可能性を秘めていると見られていたらしく、相当なメンツが揃っている。がしかし、作曲、松任谷正隆。当時も今も、ユーミンの旦那である。この人、アレンジには定評があって、まったく手を抜かない。なのに、アルバムコンセプト上から、Dr.Strutであるのは何とも残念で仕方ない。こちらのヴァージョンも聴いてみたかったものである。
三人で踊らない
先ほどの、そうそうたるバックミュージシャンの話の続きになるが、そうしたメンツが集まると、やはりミュージシャン同士の対抗意識みたいなものが、生まれるだろう。よって、ここに競い合いが生まれ、音がだんだんとグルーブしていくのである。このアルバムの場合は、西海岸のDr.Strutという外国人集団にほとんどをゆだねて音作りを進めてきているが、アレンジも込みで、行っているわけで、かなりの期間にわたって、共同生活をしていたような感覚なのではなかろうか。この曲でも、中間部でひとひねりしてあり、サックスのソロ(註:ジェイク・H・コンセプションではなく、Dr.Strutのディヴィッド・ウッドフォード)がジャズっぽい、雰囲気を醸し出している。
微熱が平熱
シングルを切られているわけではないが、その後のベストアルバムと編集盤(『Paradise Beach』『松原みきベストセレクション』『松原みき/スーパーベスト』)、には、収録されているナンバー(そのかわり、『松原みきBest』には未収録)。Dr.Strutの音にしては、比較的チープな感じが否めない。元々の楽曲の選択ミスかも知れないが。とはいえ、人気のある曲なのだろう。
Somewhere
曲を通してのマイナーコード。イントロからして、重く暗い。アルバム中最も、どんよりした曲だ。後半には、コードを上げて、歌われる。「ニートな午後3時」や「青い珊瑚礁」(松田聖子ですけど(^^;)の小田裕一郎としては、どうしてこの程度の出来なんだろうかという気もする。まあ、アルバム中のアクセントなのだということにしておこう。
カランドリエ
タイトルは、フランス語での「暦」である。つまりカレンダー。またもや、芳野藤丸のペンとなる曲だが、SHOGUNをバックにしても聴いてみたい曲のひとつである。以前提供された、「His Woman」とは違い、より松原みきに合っているような曲である。中間からサビにかけてのメロディラインとリズムを刻むベース、パーカッション、リズムのギターの感じがかっこいい。藤丸の曲が、Dr.Strutでまた違う展開を見せた好例である。
流星スウィング
文字通り、ジャズでいうところのスウィングである。松原みきが見いだされたのは、ジャズピアニストの世羅譲によるものだが、それ以来、どちらかというと、フュージョン系のミュージシャンからは、一目置かれるような存在であったようだ。レコーディングでは、これまでで最もジャズ寄りの演奏スタイルである。このあたりから、後の全曲カバーによる、『Blue Eyes』へと、発展していったのかも知れない。
See-Saw Love
唯一、シングルカットされた曲である。そちらのB面もアルバムには収録されていないので、唯一のシングル収録曲でもある。全編を通して、松原みきの真骨頂でもある、ジャズっぽい、ヴォーカルが炸裂している。楽曲アレンジは、もちろん、Dr.Strutなのだが、歌い方に関しては、簡単な指示はあったにせよ、本人の天分によるところが大きいはずである。ニューミュージック畑でありながら、フュージョン界から注目されていたり、世羅譲から見いだされたりという、素質が、後に、ジャズのカバーアルバムでもある、『Blue Eyes』につながっていくのは当然のことであろう。ちなみに、タイトルは歌の内容とはあまり関係ないのだが、当時松原みきが所属していたレーベルが、ポニー・キャニオン内のSee-Sawというレーベルである。曲のラストは、松原みきによるものすごいスキャットである。編曲クレジットに、彼女自身の名前があってもおかしくないような内容。天才の片鱗である。
5つ数える間に
スローテンポの曲だが、松原みき自身の作曲によるものである。今までの、「Marshia」や「Dream In The Screen」などと比べて、より作家的な手法が取られているように感じる。つまり、等身大の自分以上のものを表現しているように感じるのだ。中間部にサックスのソロ(註:これまた、ジェイクではなく、Dr.Strutのディヴィッド、何とも贅沢な使い方である。)を入れて、アクセントを取っているのはさすがである。
ハレーション
こちらはアップテンポな曲だが、またしても自身のペンによるものである。作詞は、「セクシィ」などの下田逸郎。かつて、パーカッションの斉藤ノブと組んでシモンサイというバンドをやっていた人である。「5つ数える間に」とこの曲で、確実に松原みきの作曲者としての表現方法は、広がってきていると思う。一般的に、曲提供を受けて歌うニューミュージック出身の女性シンガーは、次第に自分の作る曲の比重が高まっていく傾向にあるものだが、松原みきの場合、猫の目のようにプロデューサーあるいは、サウンドプロデューサーが変更になっていて、これ以上自作曲を収録できない状況にあったのが、何とも残念なのだが。アレンジは、ラテンの味付け。
Myself
インストの曲。ラストの1曲前に、インストを持ってくるのは、『who are you ?』と同じ手法。もっとも、あちらは、作詞のクレジットではあるが、同様の効果がある。アルバムタイトルと同じ曲というのも、一緒だ。アルバム中唯一、松原みきが演奏に関わった曲。クレジットは、エレクトリック・ピアノである。
Three Candles
ラストはしっとりと落ち着いた曲である。作詞が、康珍化で、松本隆ばりの職業作詞家ぶり。「だれの胸にもあるの/3つのキャンドル」というのが、個人的には、気に入っている。バックに、数原晋のフリューゲルホーンと、平内保夫のトロンボーンが流れていて、ふんわりとした感じに包まれた曲だ。

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