canna 「新世界」 アートスフィア 2002/06/17

cannaという二人組、メジャーデビュー前から、Tower Recordのbounceレーベルに所属することから、その活躍ぷりは予想されたことかもしれない。こういう例は、スガシカオ、Triceratopsと同様のレールに敷かれたようなものだろうか。とはいえ、実際にその音源を耳にする機会は、友人から送られた1本のテープの中にあった。その中での、ヴォーカル、谷中たかしの執拗なまでのねちっこさに、深入りしてみようという気になったのである。ファーストアルバム『無人島』リリース後に、偶然にも彼らのライヴを耳にすることができた。それは、彼らと事務所を同じにする、竹内まりやの復活コンサートの前座に彼らが演奏をしたのである。
しかし、cannaという二人組は、それほど公衆の面前になかなか現れない。気にしつついたのだが、ようやくセカンドアルバム『新世界』がリリースされ、図らずも、東京で2公演しかない今度のライヴに、偶然にもチケットが当たった。無料招待というやつだ。この2年の間に、彼らがどのように成長を遂げたのか、しっかりと見届けてこようと思う。

会場のアートスフィアは、天王州にある。いわば、新しいスポットともいえるのだが、こちらの感覚から行くと、ほとんど場末(失礼)に近い。仕事を早めに切り上げ、品川まで出る。ここからバスが唯一のアクセスだが、連絡は悪くない。それでも、ほとんど開演前になってしまい、チケット引き替えでまた時間を食っていささか焦る。
何とか、チケットを手にし、会場にはいるが、与えられた席は、最上段最後尾というものである。まあ、仕方がない。とはいえ、この会場すり鉢型で、ステージまでの直線距離はそれほど大したものではないが、高さは渋公の二階席なんてものではないような気がする。立ち上がるにはいささか躊躇するような感じ。まあ、それは一階席の連中に任せることにしよう。また、この会場のこの位置は、ほとんどその周囲しか見えない。下の階の状況などがはっきりとわからず、満員なのかどうかもわからない。ともあれ、この周囲は、それほど埋まることはなかった。比較的ディープなファンもここにはいないようである。
場内の明かりがいっそう落とされ、ざわめきが収まっていく。ようやく、cannaの登場だ。出てきたのは、谷中たかしと周水の二人のみ。ひとつ礼をして、周水はキーボードに向かい、谷中たかしは、マイクに向かう。谷中の呼吸が合図で、曲が始まる。「あぜ道」である。この曲にはイントロがなく、ヴォーカルと演奏が同時に始まるのである。そのために、cannaは、最初のブレスをスタートの合図にするという方法を採ったのである。二人だけのシンプルな演奏であるが、谷中たかしは鍵盤ハーモニカ(いわゆる、ピアニカとかメロディオンというやつ、ちなみに商品名である)を間奏で演奏している。続けて、「1年草」へ。
「みなさんこんにちは、cannaのヴォーカル、谷中たかしです」
「cannaで、バッキングヴォーカルとピアノを担当してます、東京出身の周水です」
という二人のあいさつ。どちらかというと、周水の方がリードしながら司会を担当していく。なかなかテンポのいい、掛け合い漫才のようだ。ちなみに、周水はわざわざ、「東京出身」と断っていたが、谷中たかしの方は、長崎県出身で、言葉も木訥な感じがするほど訛りが抜け切れていない。また、今回のステージを、ここアートスフィアに持ってきたのも、周水のわがままをある程度受け入れたものらしい。
このあとからはバンドが入る。あまり見たことのないメンバーであったが、ソバージュのような髪型のベースに、どこか見覚えがあったのだが。曲はここから、前のアルバム、『無人島』から「届け片想い」「青の時代」「風の向くまま」と続く。cannaという存在は、まだまだ広く人に知られるものではないだろう。事実、隣にいた、(おそらく、こちらも無料招待チケットが当たった連中だろう)カップルは、初めて聴く彼らに対して、とっかかりを求めて掴みきれないようであった。しかし、KinKi Kidsに提供した、「青の時代」で何とか、引き寄せることができたようであった。
ここから、cannaの長い掛け合い漫才が始まる。それは、地方出身の谷中と東京人の周水の飽くことのないバトルのようなものである。谷中は、東京に出てきて7年経つのに、方向音痴でせっかく買った、オープンカーをあまり乗り回せないでいるようだ。曰く、最近は電車がとても便利であるとのこと。東京出身の周水は、このホールをとてもほめ、「座ってじっくり聴くのもかまわないんですが、これからアップテンポなナンバーをやります。立ちたい人は、踊ってください」とのことである。
ということで、「太陽へのぼる虹」「灼熱の太陽」「右手」と続く。バンドの構成は、周水の他にもう一人のキーボード、ギター、ベース、ドラムである。もう一人のキーボードは、フレーズ以外にも、SE的なものや、マニピュレーター的なものも手がけているように感じた。中央に谷中たかしが陣取り、その右に周水が並ぶ形。周水の右側に、バンドを見渡す形で、もう一人のキーボードが位置している。ドラムは、中央奥に陣取り、谷中たかしの左奥に、ベース、その左側にギターという陣形である。ところで、cannaは、バンドサウンドになると、谷中の負担がぐっと減ってくるように思う。二人だけだと、鍵盤ハーモニカを取り入れたり、歌にも、メリハリをつけなくてはいけないのだが、ここではのびのびと歌っている。その分、周水の存在感は希薄なものになっていくのだが、この男はバックコーラスでも、拳を振り上げたり、大げさなアクションが目立つ。
このセットが終わって、周水とドラム、ベースが退場。谷中たかし一人の、cannaであり、MCももちろん一人でリードする。ここでもう一人のキーボード奏者を紹介。これが、cannaのプロデューサー的役割を果たしている、吉俣良であった。「なんだかバーみたいな大人の雰囲気ですね」と、谷中がいうと、吉俣良がジャジーなピアノで応酬。「Message」を吉俣のピアノだけで、聴かせてくれる。そして、谷中は、吉俣との出会いを紹介しつつ、実年齢までを暴露。ともあれcannaは、吉俣良のアレンジなどでインディーズ時代からのつきあい。すでに5年ほど経っているらしい。わざわざ周水を引っ込めてまで、吉俣良にこだわったのは、そういった今までの仕事ぶりへに対しての、オマージュみたいなものがあったのかもしれない。続いて、ギタリストの紹介。氏名などは判然としなかったのだが、チャゲ&飛鳥のツアーなどにも同行している人らしい。そのギターを加えてのシンプルな演奏で、「紙ひこうき」を聴かせてくれた。
ここで、ステージの全員が退場。代わって周水が再登場である。今度のアルバムでは、周水のアピール度がなかなかに高い。ファーストアルバムでも、周水がヴォーカルを取る曲もあったのだが、今度は本格的である。従って、これらの曲をやるのであろう。事実その通り、周水はピアノの前に座って弾き語りをはじめる。シングルでは谷中たかしが歌い、今度のアルバムで改めて作曲者の周水がヴォーカルを取った、「約束の場所(あの日の僕らに)」だ。彼が、二十歳の時に作った曲らしいが、かなり実体験がテーマになっているものと推測できる。
「いやあ、気持ちいいね。ヴォーカリストの気持ちがすごくよくわかった。谷中なんか、訛っているけど、あいつすごいことやっているんだなあ。こうしてみると、ヴォーカリストって、裸の王様みたいに無防備だっていうのがわかるね」と、次第に話しながらテンションをあげていく。そのうちに、彼の生い立ちとサングラスの話になった。曰く、彼は、生後まもなく、難治性の眼の病であるということが判明する。幸い、進行するものではないということがわかったのだが、そのかわりに紫外線に弱く、サングラスが手放せないものになっていく。そのために、小さい頃から、いじめにも遭い、いろいろ辛い思いをしたようである。この日は、苦労をかけた両親を招き、そのためにも、たっての希望でこの会場を選んだらしいのだ。
再び、彼はキーボードに向かい、「君のためのうた」を弾き語る。ほとんどラストにさしかかるところで、周水に変調らしきものが現れた。声が震えだし、ほとんど歌にならないような感じ。しかし、ここは何とか乗り切り、演奏しきった。礼をひとつして、退場。どうやら、先ほどの真情を吐露するところから、心のテンションが乱れはじめていたようだ。しかも、「君のための歌」も、かなり実体験の入ったような感じのものである。これが相まって、周水の感情を必要以上に乱したようであった。それにしても、プロでも、こういうことはあるんだな。
代わって、谷中の登場。SEの「From Tokyo To Atlanta」に乗せてである。続けて、カラオケトラックに乗せての、「A New World Of Love」。つまりバンドのメンバーはなしである。これを朗々と歌い上げる。続けて、SEで、「Blood Oasis」が流れ、なぜか意味不明の長いドラムソロ。この間にドラムが入ってきたのである。この間に、残りのメンバーが入場し、それぞれの位置に待機、そして、ようやく周水も入ってきた。心は落ち着いただろうか。再びバンドの音に戻って、「じゃあね」「カラフル人魚」。周水も落ち着いた模様で、キーボードを弾いている。
ここからはライヴの白眉部分かもしれない。演奏も最後の方にさしかかっている。周水がキーボードを離れ、マイクを掴んでの、MC。これにギターに合わせてのメンバー紹介。先ほどから気になっていたベースは、佐野元春と長年やってきていた、小野田清文であった。セカンドアルバムの数曲でやはりベースを担当しているのだ。周水のMCも晴れ晴れとして、英語を交えていつもの調子が出てきたみたいだ。ここからは、二人とも全面に出ての演奏で、「海に月が沈む前に」を。周水はコーラスにも関わらず、マイクを掴んで見た目はほとんどリードヴォーカルである。後半激しいジャンプと回転。谷中は、スタンドマイクのままである。終わって、「やあ、くらくらしたね」とのことである。
周水がキーボードに戻り、「記憶の空へ」「甘い潮風」「もう君以外愛せない」と、谷中たかしの聴かせるヴォーカルに戻る。終わって二人抱き合い、コンサートの成功に感謝しているようであった。ここで、バンドのメンバーが退場して、再びcannaの二人だけに戻っての「拝啓あなた様」。これは、唯一インディーズでリリースされた曲である。いわば本当のデビュー曲ともいえよう。それだけに思い入れも深い。会場の拍手はやむこともなかったが、すべてを出し尽くしたと思える彼らにはアンコールはなかった。ほとんど燃焼しきったということなんだろう。
会場を出ると、心地よい風が吹いていた。久々に堪能したライヴであった。
評価★★★★
Set List
あぜ道/1年草/届け片想い/青の時代/風の向くまま/太陽にのぼる虹/灼熱の太陽/右手/Message/紙ひこうき/約束の場所(あの日の僕らに)/君のためのうた/A New World Of Love/「じゃあね」/カラフル人魚/海に月が沈む前に/記憶の空へ/甘い潮風/もう君以外愛せない/拝啓あなた様

ライヴレポートに戻る

TOP INDEX