山弦 危険にしやがれ〜勝手な二人 Shibuya-AX 2001/01/30

山弦。ステージ上に山のように弦楽器が並ぶところから名付けられたネーミングであるが、今やこの二人をおいて、日本のギタリストは語れないのではなかろうか。この二人とは、桑田圭介のサポートなどをつとめた、小倉博和。渡辺美里、大江千里などのアレンジやプロデュース、さらには佐野元春のバックもつとめる佐橋佳幸である。彼らのステージは、一昨年のSOYデビューライヴで、ヴォーカルの平松八千代が下がった際に、山弦として少しだけ聴いたことがある。それにしても、アコースティックなヴォーカルのないステージは、どんなものになるのだろうか。

寒波の影響か、とても寒い一日。そんな中を、新しくできたAXという場所を探していく。友人に教わっていたとおり、代々木競技場の一角にある倉庫のような建物が、それであった。やや開演時間には間があり、外で待つ。全席指定で、並ぶことはないのだが、何もしないで待つよりは、寒さしのぎのために、早く会場入りしたくて、つい並んでしまう。倉庫の扉が開き、入場する。さすがに新しいだけあって、なかなか気持ちがいい。今回の席は、前から6列目という好位置で、やや右よりということは、佐橋佳幸のサイド。ステージ上には、山弦の二人が使うギター群と、ドラムス、キーボード、パーカッション類が置いてある。そして、ステージ後には、歌舞伎文字で、中央に「山弦」と大書きしてあり、右に佐橋佳幸、左に小倉博和と縦書きの布が。
さあ、メンバーの入場だ。キーボードに柴田俊文、ベースに有賀啓男、パーカッションに唯一の女性の大石真理恵、ドラムスに鎌田清という布陣。SOYの時と同じで、柴田は、佐橋とUGUISSというバンドでデビューした仲である。最後に、山弦の二人が登場。ギターをチェックしつつ、その場で細かいチューニング。そして静かに曲が始まる。
曲は静かな展開を見せながらも、サビ(インスト曲にもやはりそういうのだろうか)の部分でバックにかかる、歌舞伎文字の幕がはらりと落とされ、大漁旗とかわる。小粋な演出に沸いた場内。佐橋が弾くフレーズを小倉がリフレインしたり、その逆もある。また、二人のアンサンブルもあって、山下達郎をして「ゴンチチなんかよりも絶対に上手い」と言わしめただけの実力の片鱗がそこここに宿る。筆者の体調は仕事疲れでいまいちであったのが、見る見る間に癒されていく。そんな不思議なMagicがこの空間にはある。
インスト曲のライヴではこれという大きな動きにかけるために、みんなじっくりと聴いている状態。もちろん、立ち上がることなんてなし。あるのは、曲が終了しての満場の拍手だけであるが、この賞賛がミュージシャン冥利に尽きるものではなかろうか。書き手としても、単調な記述に陥りがちになろうかというもの。ここは、ライヴ中のエピソードについて書いていこう。
ライヴが始まって間もない頃、波の音を演出するために、小豆を入れたざるを持ったローディが登場。アコースティックな楽器ばかりとはいえ、すべてアンプを通した音が会場に響き渡るのだが、小倉と佐橋の前にはマイクが用意されている。すかさず、「今日は音響担当の方をお呼びしています」「ねえ、そろそろあの人も疲れてくるだろうから、曲をやろうよ」といった掛け合いが。そう、ヴォーカルも入らないのに、用意されたマイクはすべて二人のMCのためにあるのである。それほど、二人の息はぴったりと合っている。
また、ギターデュオとはいえ、時にはギター以外のものも弾く。この夜は、小倉がギリシアの弦楽器「ブズーキ」を演奏する。どんなものになるのかと思ったが、ギターとの相性も抜群。それにしても、元々は悲しげな音を奏でるブズーキ、彼らにかかるとそればかりでなく特殊効果を生むものとして、新たな命を吹き込まれたかのようである。この8弦の楽器、弾きこなすのは難しかろうが、いつの間にマスターしてしまったのだろうか。もう彼らは、一ギタリストというよりは、弦楽器であるならば、何でも弾きこなしてしまいそうな感じである。
この日の、小倉はドレッドヘアに眼鏡をやめて素顔で勝負。着ている服もウエスタン調で何となくワイルドに見える。また、佐橋は口の周りに髭を蓄え、これまたワイルドな感じ。見かけばかりでもないのだろうが、二人の演奏が何となく凄味を身につけつつあるのだろうか。まあ、見た目が小柄な二人、演奏は抜群でもやや迫力に欠けるところがあったのを補おうとしての視覚効果であろうか。
バックのバンドは、別名「男冥利」という。このあたりも彼ら特有のユーモアさがにじみ出ているのだが、バンドを引き上げさせてのギター2台によるシンプルな演奏もまたいいものだ。ここでのMCは、「やっと二人きりになれたね(爆笑)」に始まり、海外でのレコーディング話へと展開していく。たまたまそのときの宿が余った部屋がなくて、小倉と佐橋が当然のようにツインにあてがわれたとのこと。で、ここで手持ちぶさたになってしまい、結局は「ギターでも弾こうか」となってしまい、曲ができてしまうとか。彼らの作曲方法は、それぞれが持ち寄るものではなくて、どちらかの二人がたまたま弾いたフレーズを元にして、それぞれがアイデアを出し合い、それを元に曲に仕上げていくもので、常に作曲は山弦となるのだそうだ。
それにしても、ギターだけのシンプルな演奏であるが、それだけに両手が魔法のように駆使される。特に小倉は、乗ってくると椅子から腰を浮かせかけて、身体全体で表現しているかのようである。神懸かり的な顔つきも半ばトランス状態のような感じ。聴いているこちらも、気持ちよくなってくるから見ていても好感が持ててしまう。
アンコールのあとは、初めて二人エレクトリック・ギターに持ち替え、立ち上がっての演奏である。もちろんバンドも復帰しているのだが、感じがかわっても、気持ちよさには変わりがない。この曲は、アルバムにはアコースティックヴァージョンが収められていたのだが、ニューアルバムでエレクトリックのヴァージョンをやってみたとのこと。なんだか、持てるものをすべて見せてくれましたという感じ。
すべてが終了すると、不思議とストレスが消えていた。ここまで2時間45分。アコースティックなインスト曲だけでこんなに引っ張ってこれるのは、彼らならではだろう。しかも、アルバム2枚とミニアルバムしかも、カバー中心のもの1枚しか出していないのに、である。来てみてよかったと久々に思ったライヴであった。
評価★★★★★

以上、2001年のログを残しました。彼ら山弦、佐橋佳幸は山下達郎、佐野元春のサポートの他、アレンジ、プロデュースへと休む暇もないくらいの活躍ぶりで相変わらずです。小倉博和も、セッション活動、アレンジ、サウンドプロデュースと大忙し。山弦自身としても、『Hawaiian Munch』『Island Made』というアルバムをリリースしています。
その後のライヴには残念ながら参加できませんが、また聴きに行きたいものです。

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