Tokyo FM 開局30周年記念イヴェント(canna/Sing Like Talking/竹内まりや)
日本武道館 2000/07/12

新人のユニット、cannaに興味があった。はからずも、雑誌「ぴあ」でこのイベントを知り、スーパーリザーブシートに応募したものの、こちらは外れ。半ばあきらめていたものの、その後追加の座席が発売され、こちらを難なくゲット。そして、イヴェントには、あの竹内まりやも、出演とのこと。

canna

彼らは、ヴォーカル谷中たかしと、キーボードとコーラスの周水のユニット。二人は1997年に出会い、インディーズ時代にすでに100曲の持ち歌があったそうだ。99年にbounceレーベルからインディーズデビューを果たし、そのままメジャー契約。この、bounceレーベルからは、スガシカオ、TRICERATOPSなどが輩出され、期待の二人組なのだ。自分が知るきっかけとなったのは、友人から贈られたテープ。これを聴いて、まさに虜になってしまった次第。

で、このTokyo FMの開局イヴェントのオープニングアクトが、cannaである。会場は、ほぼ満員。自分の席は、東面という、ステージに対して、ほとんど真横の席。とはいえ、1列目だったので、ステージに近く、追加発売とは思えないような場所だった。まあ、右半分は機材やステージの影で見えないのだが。

cannaの登場は、18:45頃。大仰なアナウンスがあって、バンドのメンバーが入ってくる。ギター、ベースに、ドラムス、さらにサポートのキーボードも入るようだが、あまりよく見えない。跳ねるように入ってきたのが、ヴォーカル谷中たかしとキーボードの周水だ。聴き慣れない曲をやっているが、あとで彼ら自身のMCでわかった「右手」である。まだ、登場間もないこともあり、何となく音のバランスが悪い。それでも、谷中たかしは、スタンド型のマイクを振り回し、曲の途中で、周水が拳を振り上げたり、拍手を促している。ここまで来ると、新人にありがちな舞い上がり方にも見えたのだが、そうではなかった。

ここで初めて彼らが口を開く。「今晩は。cannaのヴォーカル谷中たかしです」ありゃ、こいつ少し訛っているぞ。「今晩は。cannaのキーボードとバックグランドヴォーカル担当の周水です」二人のMCは掛け合い形式だ。どちらかというと、周水の方がリードしていく感じである。「こんなに早く、憧れの武道館のステージに立てるなんて思ってもいませんでした」と、なかなか謙虚である。続いて、アルバムにも入っている、「春の風」に。何となくざわつき気味だった会場も、しっとりとした演奏に、少し落ち着いたように思えた。

「僕たちは、あまり知られていないと思うけど、Kinki-Kidsなんかにも、曲提供しているんですね。こちらの、cannaこと周水が、堂本君なんかが主演しているドラマのテーマソングも、書いてます」「cannaこと、周水と来たか。そうです。書きました。じゃあ、ちょっとさわりを…」という感じで、その曲をさらっと周水が歌う。そんなMCから、やはりKinki-Kidsに提供した、「青の時代」を。そして、この日発売だという、「右手」のカップリング曲、「金魚すくい」を。この頃になると、数は少ないが、canna目当ての女性たちが、ちらほらと立ち上がって踊り始めている。谷中は、黄色いストライプの半袖シャツ、周水は、ブルーのシャツの上に、白のジャケットとパンツで決めている。

「憧れの武道館で、Sing Like Talkingさんや竹内まりやさんなんかみたいにお花が届いてるかな、届いてるわけないよなとトイレに行ったんですが、その帰り」「ん、その帰り」「気になって見たら、ありましたよ。草薙君から」「次の曲は、彼が出演したドラマのテーマソングです」というノリで、「風の向くまま」へ。cannaという存在、CDでは、谷中が歌っているものの、周水の出番はかなり少なく、中にはコーラスも担当していないものもある。自分の中ではあまりデュオという感じがしていなかったのも事実だが、実際に聴いてみると、周水も見事なコーラスを披露し、まさにデュオである。また、ここではバンドがいるものの、二人だけのシンプルな演奏もなかなかなのである。

ここで、バンドの音が激しくなって、谷中たかしがステージ狭しと跳ね回る。インディーズ時代の「誰かの写真」という曲だ。かなり盛り上がって、バンドは退場。これで終了と思ったが、最後にもう1曲。「あぜ道」という曲だ。イントロなしで、始まるのだが、谷中たかしの息を吐き出す音が合図のようである。周水のピアノに加え、中間部では、谷中たかしが鍵盤ハーモニカを吹く。1万人の聴衆も聞き惚れるという展開。最後は、谷中たかしと周水が中央に出てきて、手を組んでそれを高く上げる。最初出てきたときには、形式的だった拍手も、気持ちの入ったものになっていたようだ。

終了後の休憩で、後ろにいた連中が語っていたことがちらっと聞こえる。「だめだ、しつこすぎる」。確かにそうかもしれない。しつこいのは事実だ。何しろ、谷中たかしのヴォーカルスタイルは、ほとんど声量を落とさず、マイクを離したり近づけたりして、強弱をつけいてるくらいだから。また、粘っこい歌唱法もあるだろう。ただ、ジャニーズ事務所とコネクションのある、スマイルカンパニーが後ろに付いているとはいえ、そう頻繁に彼らに提供できるものではないだろう。やはり実力があってのものなのだ。彼らはきっとブレイクするだろう。

評価 ★★★★


Sing Like Talking

まん中で登場が彼ら。なんでも、このところソロ活動が忙しく、メンバーで集まるのが久しぶりだとのことだが、オリジナルを2曲やったあとは、「今日は年齢層が高いので、見たところお休みになっている方も多いようなので、懐かしの洋楽カバーをやります」といって、アラン・パーソンズ・プロジェクト、カンサス、ホール&オーツをやった。しかし、曲間がものすごく長く、演奏音も相当でかい。こちらが眠くなってしまったほどである。ラストに、これから収録に入るという、「One Day」という新曲(「一昨日できたばかり」らしい)をやって退場。

ステージの半分は見えなかったものの、ドラムス、村上"ポン太"秀一、キーボード、西脇辰也、コーラス、大滝裕子というサポートはなかなかに豪華であった。ちなみに、よく知らないので、評価はなしである。


竹内まりや

Sing Like Talkingとのセット替えで、休憩20分。やはり大仰なアナウンスがあって、バンドメンバーが入ってくる。オープニングでは、すらっとした毛糸の帽子を被ったギタリストがソロを弾き出す。ワンフレーズ終わって、もうひとりの小柄なギタリストがその後を受ける。ありゃ、これは山下達郎に佐橋佳幸じゃなかろうか。そのイントロが流れる間に、竹内まりやの久々の登場だ。白いTシャツの上に、ノースリーブの長いワンピース。色は茶系統。「♪今夜もお客は満杯〜」。をを、このフレーズは、「アンフィシアターの夜」だ。もちろん、この曲が作られた当時は、竹内まりやがステージを踏むということはまるで考えられないような状況だったのだが、まさにオープニングにぴったりの曲である。見ると、アリーナ席はほとんどが立ち上がり、約19年振りのまりやのステージを暖かく迎えている。続いて、まりやもギターを抱えて、「家に帰ろう(マイ・スウィート・ホーム)」である。まりやのギターは、ほとんど効果音程度のものだったかもしれないが、おそらくステージ上で披露したのは初めてだったのではなかろうか。

「お久しぶりでございます」この、18年7ヶ月という歳月は、生まれ落ちた子供が大学生になるというような、長いタームである。やはり山下家でも、家事や育児におわれ、こんなに長い月日がたってしまったということだ。そんな中でも、ファンを忘れなかった気持ちが、「Forever Friends」「♪どんなに長くごぶさたをしてても…」というフレーズに現れていないだろうか。曲は続いて、「マンハッタン・キス」へ。オープニング近くでは、あまり声も伸びてていないように感じたのだが、このあたりでいよいよ本領発揮ということか。

ここで、二度目のMC。のびのびと呪縛から解放されたように、まりやは話す。その後ろで、山下達郎はやりどころがないように、うろうろと動き回るが、かつてのニックネーム「クマ」を彷彿とさせる。まりやは自身によると、「喋りも達郎が入ってきてしまっている」そうで、なかなかに面白い。ここで、まりやは椅子に腰掛け、「五線紙」を。この曲は、筆者が初めてLPを購入した『Love Songs』に入っていたもので、よく聴いたものである。まりやも、作曲者の安部恭弘とは慶応の同期で、よく彼と結婚すれば、「アベマリヤ」になれるとかいう話、その安部も会場に来ているという話、クラプトンに会った話などで会場を盛り上げていく。

話も中森明菜や広末凉子まで曲提供をしていたこと、一番書いてあげた岡田由希子が亡くなってしまった話など、移り変わり、薬師丸ひろ子に提供した、「元気を出して」へ。「もちろん、失恋した人とか、こんな時代だから、リストラされてしまった人も会場にいるでしょうから、そうした人たちに贈ります」とのことだ。

「カムフラージュ」の後に、メンバー紹介。やはりと思ったが、山下達郎のツアーメンバーがそっくりそのまま登場しているのだ。すなわち、ギター、山下達郎&佐橋佳幸。ベース、伊藤広規。ドラムス、青山純。ピアノ、難波弘之。キーボード、重実徹。サックス、土岐英史。コーラス、佐々木久美、国分由里恵、三谷泰宏。その中のエピソード。佐橋佳幸とは、数年前に出会い、「まりやさんのギターは僕すべて弾けますから、復活したときには是非使ってください」という申し出があったそうだ。また、土岐の娘がシンバルズのヴォーカルで、やがては印税生活などともまくし立てるところは、達郎もびっくり。それに、山下達郎の所では、「日本広しといえども、山下達郎をあごで使えるのはこの私だけ」というあたりも、実は達郎譲りの毒舌家。まりやも、MCの間は、どことなくユーミンに似ているような感じである。ラストは、「プラスティック・ラブ」で、アウトロの最中に、まりやが退場。曲の終了とともに、ステージから銀のテープが客席に向けて発射される。

もちろん、アンコールはあるだろう。これを促す拍手は即座に始まった。まりやが登場。黒いノースリーブのシャツに、白いタイトなパンツルックである。これで、40代中盤といえるだろうか、とてもそうは見えん。最初は、コーラス隊と、達郎を従えて、アカペラの「リンダ」である。達郎のひとりアカペラなんかよりも、相当緊張感が入っていて、聞き応えがあるものだが、まりやは途中の歌詞を忘れた。

続けて、「不思議なピーチパイ」「セプテンバー」「J-Boy」と立て続け。まだまだやるかという感じ。まりやも、ステージ狭しと、左右に動き回り、ファンに手を振る。こちら側に来たときは、やはり間近に見えてなかなかいいものだ。そして、ラストは、バンドも去り、改めて、山下達郎に謝辞。締めは、デュエットで、「Let It Be Me」を。

彼女がこの中で言っていたことだが、歌い続けられるときまで、やめないという決意、山下達郎とともに、これからの音楽会を担っていくであろう。おそらく、竹内まりやは定期的に活動していくであろうし、コンサート活動も増えていくのではなかろうか。

評価★★★★


以上、2000年のログをほとんどそのまま残しました。
Sing Like Talkingについては、ほとんどおまけみたいなものなので、ここでは割愛します。
cannaは、このあと、ミニアルバム2枚、フルアルバム『新世界』をリリースし、2003年6月をもって、活動を終了しました。これからという時だけに、非常に残念ですが、それぞれに楽曲提供などを行っているようです。個人的には、この時だけでなく、解散前に単独のライヴにも参加できただけでも、よかったと思います。
竹内まりやは、自身18年ぶりのステージということで、予想以上にいい出来でした。というか、この音源だけで、ライヴアルバム『Souvenir』をリリースしてしまうほど。自作曲だけでなく、かつての職業作家の提供曲も聴けることができて、非常によかったです。また、フルアルバム『Bon Appetit!』、洋楽カバーアルバム『Longtime Favorite』をリリースし、それぞれオリコンアルバムチャート、1位を獲得するなど、山下達郎以上に活発な活動をしています。残念なことに、この時以来ステージに立つということはありませんが。

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