ひょんなことから、松任谷由実のチケットが手に入ることになった。東京国際フォーラムは、自分にとっても初めての会場。キャパシティは約5000人とのことである。開場の定刻に入場するが、階段を上がったところでしばし待たされる。それも、15分ほどで座席にたどりつくことができた。
それにしても、年齢層の高い観客だ。自分の行くコンサートでは見ることがない30代くらいの娘とその母親とか、頭のだいぶ薄くなったような男性もかなり目に付く。そんな中、隣りに関西から来たらしい女性二人組が席に着いた。「今回は、だいぶ男の人が多いわあ」ということだが、そんなものなんだろうか。
結局開演時間もだいぶ押して、こちらも15分の遅れ。中央には、YとMを型取った巨大なロゴと、グランドピアノ。暗くなったステージに一筋の光が当たり、黒っぽいロングドレス姿が現れる。ユーミンだ。割れんばかりの拍手。客席に一礼して、ユーミンのピアノの弾き語りから始まる。
「今度のツアーは、自分のごく初期にやっていたスタイルに変えてみた。今回は、聴かせるふうにしてみたい。自分もいきなり総立ちになるのは好きじゃないし、座ってじっくり聴いてくださいね。(会場を見渡して)その方がいいでしょう(笑)?長くやっていると、中にはお亡くなりになった人もいたりして(笑)」
「こういうスタイルは久しぶり。ステージでピアノを弾くのもずいぶんと久しい。自分もピアノの腕前が落ちてきているので、必死(と、ここで両手をぶらぶらと振ってみる)。だから、今日は私も必死だけど、反応が返ってくるようなステージにしたい。だから、皆さんの責任も重大なんですよ(笑)」ユーミンの語りは、落ち着いていて、説得力のある言葉が伝わってくるように思う。長年のファンであるという同行者は(ファン歴はこちらの倍はあるだろう)、にこにこして頷いているような具合だ。
弾き語りスタイルから、バンドの音が重ねられ、曲調も高揚をしてきたように思う。しかしこれはまだ序曲だ。そのスタイルを続けながらも、曲は最新アルバム、『FrozenRoses』からのものへと移っていく。後半、遂にユーミンが曲の間奏で立ち上がって、中央のマイクをつかみ、スポットが彼女を追う。
マイクを持ったユーミンは、コーラス隊に混じって、同じ振り付けで踊ったり、ステージを縦横無尽に動き回る。ステージ最前部に出ては、歌いながらも最前列のファンの差し出す手に次々と握手をして入るではないか。このあたりは、キャリアの為せる技とでもいうか、余裕のようなものを感じる。
「ピアノ、武部聡志」と紹介しつつ、彼の長いピアノソロ。この間にユーミンは衣装替え。再び出てきたときには、帽子を被ってパンツルックになっていた。そのまま、武部氏のピアノだけで、「Josephine」へ。
このあとは、ユーミンの語り(シャングリラ中のエピソードなど)の間に、ピアノが搬出され、ロゴマークも釣り上げられた。スツールが運び込まれて、アコースティックスタイルの演奏となる。ユーミンも座ったまま歌う。聴かせどころもきちっと押さえた演出。また、この会場は非常に音が良く、ハウリングなどといったものは全くない。ミキサーブースには、松任谷正隆が陣取っているのだそうだ。
同行者は、「海を見ていた午後」で一緒に口ずさんでいたようだ。このあとは再び、バンドで演奏することになるのだが、比較的昔のヒット曲中心といった構成。それも、早い曲調のものが多く、ぽつぽつと立ち上がるものも出てきた。「リフレインが叫んでいる」あたりで、アリーナ席は総立ちとなった。この間にも、ユーミンはエネルギッシュに動き続けている。ステージ上をまんべんなく動いているようである。そして差し出された手には、必ずといっていいほど握手を返す。それもほとんど全員にである。けっこう気さくな人だと思う。
ユーミンをはじめとして、バンドとコーラスが全員ステージを去る。もちろん、アンコールの拍手は鳴りやまない。比較的短いインターバルで、再びの登場となったが、この時、隣の二人組が申し合わせたように、「ユーミ〜ン!」と声を揃えて何度も叫んだ。ユーミンは、今度はショートパンツ姿。あちこちで、ユーミンコールが起きている。それも女性からのものがほとんどだ。
アンコールは、「守ってあげたい」から始まった。次の「中央フリーウェイ」にさしかかるとき、同行者はかすかに涙ぐんでいたようだ。
「昨日はクリスマス・イヴだったけど、今日が本当のクリスマスですからね」ということで、ユーミンを筆頭にステージの全員がサンタの帽子を被っての、「恋人がサンタクロース」だ。このあたりになると、会場でもコーラスが始まっていたように思う。最後は、サンタの帽子を会場に向かって全員が投げ入れ、横一列に並んでの、ご挨拶。
すでに会場の電気がつき、半数くらいが帰途につこうとしていた。それでも拍手は鳴りやむことはなかった。実際我々も、帰り支度をはじめ、さあ出ようかとしていたとき、ユーミンと武部氏がひっそりと登場。内心、「クリスマスだからあの曲でラストはいいとしても、ちょっと食い足りないな」と思いかけていたときの再登場は、正に的を得ていて、嬉しい。
「このような形のツアーをやるのは、内心不安だった。でも、なんとかやり遂げて満足している。コンソールにいる、松任谷プロデューサーが一番そんな思いなんじゃないかしら」
そして始まったのが、ピアノだけでシンプルな「青いエアメイル」。こういうものを聴けただけでもラッキーなのかも知れない。
Set List(協力JUNTYさん)
1.ベルベット・イースター 2.ジャコビニ彗星の日 3.生まれた街で 4.たぶんあなたはむかえに来ない 5.Night Walker 6.恋は死んでしまった 7.Spinning Wheel 8.Josephine 9.ロッヂで待つクリスマス 10.海を見ていた午後 11.巻き戻して思い出を 12.Lost Highway 13.ツバメのように 14.リフレインが叫んでいる 15.Now Is On 16.アフリカへ行きたい 17.星空の誘惑 18.流星の夜 (encore)19.守ってあげたい 20.中央フリーウェイ 21.恋人がサンタクロース (double encore)22.青いエアメイル
評価★★★★
以上1999年のログを残しました。
ユーミンのライヴ初体験でしたが、まさしくエンターテイメントのなんたるかを心得ている人であると思いました。決して歌番組には出ない彼女ではありますが、彼女の歌を聴きに来てくれた人には、思いっきり楽しませる、差し出された手にはできるだけ握手をするなど、決して一介のミュージシャンにとどまらないところが彼女のすごいところです。
とはいえ、このアルバムをラストにして彼女のアルバムセールスが落ち込んでいくようになってしまいました。が、彼女と同世代の中島みゆきは4つのディケイド(10年を一区切りとする年代の区切り方、70年代、80年代、90年代、2000年代)でオリコンシングル1位獲得という快挙を成し遂げているし、竹内まりやも3つのディケイド(80年代、90年代、2000年代)でオリコンアルバム1位獲得というこれまた快挙を成し遂げています。ユーミンも前述の彼女たちに比べなんの不足もないばかりでなく、それ以上のポテンシャルで時代を引っ張ってきた人というのは、ここでいうまでもないことです。さて、この後、セールス上でどのような復活を遂げるのか楽しみでもあります。