堂島孝平 Freedom Tour 渋谷公会堂 1998/12/20

堂島孝平の名前を知ったのは、昨年のことである。通信上のお遊びで、「ナイアガラトライアングル」を新たに構成するメンバーをあげてもらったところ、スガ・シカオや斉藤和義とともに、彼がでてきた。まず、手始めに、『すてきな世界』から聴き始めて、たちまちそのポップな感覚に魅せられる。その後次々とアルバムをフィードバックさせていき、全作制覇。その彼が、新作『Emerald 22 Blend』を出した。これまたなかなかの出来。そして、ツアースタート。実は、このチケットを取った時点では、かなり発売から時間がたっていたのだが、1Fの中央が確保できた。「ぴあ」ではかなり遅いところまで、チケット情報が載っていて、もしかするとあまりさばけていないと思っていたのだが。

日曜日の渋谷公会堂の開始時間は、普段よりも早い。そのことをすっかり忘れていた。というわけで、家を出たのが午後4時という時間である。駅までタクシーを飛ばすが、渋滞にはまりかなりかかってしまう。渋谷に着いたのが、5時15分。すでに暗くなっていて、街にはクリスマスのイルミネーションが眩しい。急いで買い物をしつつ、渋公に着く。すでに開場時間ぎりぎりだ。係員が入場の誘導を始めている。リハーサルが延びたので、ロビーにいったん客を入れてから、扉を開けるるという。そのうち入れると踏んでいたのだが、ファンの列はなかなか進まない。普段なら、すぐに列はなくなっているはずだが、逆に列は増えて行くばかりである。その最後に着く。並んでいるのはほとんどが女性ばかり。男性は女性の連れがほとんど。しかし、ごくわずかに単独行動の男性もいることはいる。
何とか席に間に合った。座ろうとすると係がやって来た。その列の前には、ミキサーやビデオ機材があり、別の席に案内するという。結局、そこから6列前の、ほぼ中央に案内された。これはラッキー。会場を見渡すと、男性は10人にひとりもいない。しかも、中央通路から前は、今までになく若いファン層ばかりで、おそらく女子中高生ではなかろうか。会場の入りもほとんど100%という、事務所の戦略は、日曜日の早い時間の公演、安い料金設定ということで、見事に当たったようである。
ステージには、すでにスモークがたかれ、白く煙っている。程なく客電が落ちて、メンバーの登場。堂島が中央に着くまもなく、総立ちとなった。オープニングは、ニューアルバムから、「ハートのルージュ」である。ツアーメンバーは、5人。中央の堂島孝平を挟んで、右にギター、左にベース。その後ろに、右からパーカッション、中央にドラム、左にキーボードという編成である。堂島は、フェンダーらしき、ギターをかき鳴らしている。会場が女性ばかりで、総立ちとなっても、自分の頭はひとつ抜けている。しかし、ちょうど前に男性がきてしまい、中央の堂島の位置が被ってしまい、その人と重ならないようにしていないと堂島本人を確認できないのが残念であった。しかも、堂島孝平は、身長163p。黒いコーデュロイのパンツに、生成のトレーナーっぽいものを着ている。
曲の合間には、ライトが消えるものの、すぐに次の曲が始まる。再び中央に向き直った堂島は、「微笑がえし」を歌う。すでに前のツアーでも、十分に演奏された曲であろう。見ていて安心感がある。ノリもいい。ここでは、堂島のポップなメロディの中に、言葉だけ並べていくと、こちらが恥ずかしくなってしまうような詞が溢れている。しかし、それに堂島孝平の歌がのると、クオリティの高いポップソングとして成立してしまう。ここでの演奏は、CDの雰囲気を損ねることなく見事に再現されていると思った。バンドが演奏を各自楽しんでいるようである。リラックスしているところもすごくいい。続く、「世界は僕のもの」も同様。
曲の合間の暗転では、会場の中高生から、「堂島く〜ん」「こうへいく〜ん」という歓声があちこちで起こる。自分にとっては、このようなライヴのノリは、テレビでしか経験がない。おそらく、ここにきているほとんどの中高生にとっては、堂島孝平が「隣のお兄さん」的なポップスターなのだろう。中学生くらいにとっては、アイドルと同様に捉えている者がいるといっても良かろう。ここで、初めて堂島が口を開き、彼女たちも安堵したようである。「こんばんは〜。堂島孝平で〜す。今日がツアー最終日、ついに渋公にやってきましたよ!」と嬉しそうである。
曲目は、ニューアルバムを中心に、過去の曲も織り交ぜながら展開される。堂島孝平は、フェンダーのギターと、アコースティックギターを使い分けながら、中央で金属的なヴォーカルを聞かせている。「恋はラベンダー」では、バックが紫に染まった。ファンは、曲も聴きたいながら、曲の合間に、彼のしゃべりを常に期待しているようで、あちこちで名前が連呼される。しかし、堂島本人は、至って冷静にしている。演奏にはいるときは、曲に集中していたいようで、それに対する反応は特にない。堂島自身には、それほどアイドル的自意識はなさそうで好感が持てる。彼の特徴として、歌い方や声がある。シャウトするような歌い方ではなく、声帯を裏返すようにして声を出す。ちょっと聴くと、変態的ではあるのだが、不自然ではなく、曲のスタイルとマッチングしているから、気持ち悪くならない。まさにポップスターではなかろうか。まあ、それにしてもあまり売れていないのであるが。
ファンの熱狂にようやく応える形で、長い語りが入る。
「どぉ?楽しんでるの?4年かかって、渋公に来れました!デビュー当時は、この前にある、egg-manでやっていて、今日は渋公どんな人が来るのかななんて見ていたんだけど。ついに、来ることができました。その後は、パワーステーションでやってましたけど、それがなくなって、今日は自分のホームグラウンドに帰ってきた感じかな」
「デビュー当時は金なくて、1週間ずーっとスパゲッティばっかりの時もあったよ。それにホントに万引きしようかって思ったときもあった。さすがに踏みとどまったけど。まあ、フランスパンなんだけどね」このあたりの思いは、ある曲にも現れているようだ。
「1週間同じものばかり食べていると、出てくるものも同じで、アルデンテにできたときなんか、どこか硬めでさ(笑)」ここでキーボードと受けたことを確認して、指を出す。
「俺って、見られる意識に欠けるところがあるのかもしれない。ある時、家の近くで、『堂島くんですか』と聞かれて、そのとき高校の緑のジャージに上は、爺ちゃんの形見の阪神タイガースのTシャツで。おてんばだったから、膝のところなんか穴開いててさ、『違います』って言おうと思ったんだけど、しっかりここんとこに、堂島って、名札貼ってあったんだよ」
「今年の夏もコンビニに深夜行ったとき、トランクスのまんまだったんだよ。(会場から、「えーっ!」というどよめき)トランクスっていっても、これから海!っていうノリのやつなんだけど。男の子に聞かれて、『はい』って言おうと思ったんだけど、隣にしっかりと彼女がいてさ、『違います』って、声のトーン変えたりして」
「電車の中でも、女の子二人組が、『あれってもしかして、堂島孝平?』って言ってたけど、少女Bが、一言『違うわよ』」
かなりしゃべりも達者な人である。堂島孝平のライヴは、なかなか面白いのである。
自分なりに表した愛の形ということで、「ラブ」を。ここでは、弾き語りヴァージョン。ほかのメンバーは、各自パーカッションを持つ。タイミングをわざと外して、堂島孝平とわざと顔を見合わし、お辞儀をするという、コミカルな演出。会場の笑いを誘う。再び、マイクを取って、「今まで、ライヴでやっていない曲がひとつだけあります。そう、今日は日曜日。そろそろ始まるかな。7時といえば、『こちら亀有公園前派出所』。そのテーマソング」ということで、「葛飾ラプソディ」初演奏。
このあとは、淡々とニューアルバムからの曲の演奏が続く。再び、「どお?楽しんでるの?」という語りとともに、「ドライビング・ミュージック」に突入。ステージの背後からは、バックライトがついて、堂島孝平が浮かび上がる演出。ここでは、延々とリフを続ける。堂島もステージ前にでてきて、観客にリフを歌わせ、声が最高潮になったところで、手で○をつくって、次のブロックへ。
「Freedom」「ロンサム・パレード」とアップテンポな曲が続く。最後は、背後に掛かっていた幕が落ちて、天井からは、銀テープが会場に舞い落ちる。スピード感に溢れていてなかなか良い。ここでいったん退場。しばらくしてのアンコールでは、ロビーで販売しているTシャツ姿に全員着替えての登場だ。「楽しいわ。もう少し曲を続けます。昔の曲からやってみようか」ということで、始まったのが、「俺はどこへ行く」。堂島孝平デビュー直後の曲だが、このころはあまり年齢に見合わない骨太のタッチで迫っていたものである。どちらかというと、今でもあまりイメージに合っていないと思うのだが、本人としては、ポップスターのベクトルよりも、ロックンローラーとして、活動していきたいのかもしれない。
しかし、「ゾンビのカーニバル」などでは、女性客のほとんどがリフのところで、手を挙げ曲にあわせてうち振っている。まるで阿波踊りのような感じにも見えてしまう。とはいえ、ステージの堂島はギターをバリバリ弾きまくり、小刻みにジャンプも入れている。女性ファンからは「ギターを手にしたアイドル」、筆者としては「まさしくポップスター、王道路線」、そして本人は、「ロックに未練を残している」ようにも感じるのだが。このあたりの中途半端な感じなかなかブレイクにはほど遠いような。ともあれ、堂島孝平まだまだ若いことに、曲の合間などに、水物を取らないのである。最後の「ジョニーはひとりぼっち」では、パーカッションも前にでてきて、ギタリストにコードを押さえてもらいつつ、ピックを持って二人で弾いている。堂島はベーシストと向かい合って、大ロックンロール大会である。ほとんどの曲が、間奏が短く、あまり前にでられなかったことへの反動なのか、堂島のパフォーマンスはかなり激しい。身体が自然に動いてしまうようなのか。
さて、これからの堂島孝平は、いったいどこへ行くのだろう。このままでは、中途半端なロッカーで終わってしまうではないか。彼には、もう少々マスコミなどにも露出してもらって、注目度を高めてもらいたい。ひょっとして、学生を卒業すれば、転機が訪れるかもしれない。また、再びのツアーも決まったようである。とにかく、女性だけには、独占させておくのはもったいない存在である。
評価★★★+★1/2
Set List
1.ハートのルージュ 2.微笑がえし 3.世界は僕のもの 4.マイ・ライフ 5.恋は幻 6.恋はラベンダー 7.ハンモック 8.ラブ 9.葛飾ラプソディ 10.哀しみにさようなら 11.スケッチ記念日 12.Remember 13.白の世界 14.めぐり逢えたら 15.ドライビング・ミュージック 16.Freedom 17.ロンサム・パレード
(encore)18.俺はどこへ行く 19.恋するマリー 20.ゾンビのカーニバル 21.ジョニーはひとりぼっち

以上、1998年のログを残しました。当時は、アルバムタイトルにもあるように22歳という気鋭。デビューは、高校生の時に出た甲子園でのコンテストがきっかけ。その時は、ブルーハーツにあこがれる少年で、一人称も「俺」という言葉が中心で、アコギ1本で本人はロックをやりたかったようである。が、その風貌と曲の感じがどうしてもギャップがあり、試行錯誤を重ね、ポップ路線に踏み込んだ模様。事実、こちらの方が合っている。ポップ路線に走った頃は、夢見る少年のようなところがあり、ややもするとメルヘン調(少し変態的)な曲もあった。それにしても、セールスに結びつかないという、感じ。
その後、彼も大人になり、2000年あたりからバックバンドとして一部スカパラのメンバーを中心とする、Go Go King Recordersを従え、本当の大人のポップス、男が聴いても気恥ずかしくないポップスをやるようになったのは、喜ばしいことである。だが、本当のブレイクにはまだ至っていない。今後をさらに期待する。

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