山下達郎 Performance 1998/1999 大阪フェスティバルホール 1998/11/02

山下達郎、7年振りの活動再開。8月にアルバム『Cozy』を発売するとともに、ツアー日程が明らかになった。ツアー初日が、府中ということだったが、とても疲れる泊まり開けの出張の帰りに当たり、こちらははじめから狙ってない。次の関東圏は、大宮である。これまた遠くてパス。そのほかの東京公演は、クリスマス付近と、年明けである。クリスマス付近は、不純な動機に使う奴らが加わって、競争率が高そうなので、はじめから年明けに狙いを定めた。
しかし、それだけでは物足りない。ここは関西の友人に頼み、大阪も見ておこうと作戦を立てる。そして、取れたのがこの日である。なんといっても、7年振り、次はいつになるかわからないのだから。

大阪入りは、15:00過ぎ。激ジョブ状態ながら、何とか仕事は休みにする。梅田近くのホテルに旅装をといて、一休み。17:45の開場にあわせて、歩いてフェスに向かう。途中のタワーで、欲しかったCDを見つけ、幸先がよい。開場入り前に、近くのコンビニで、コーヒーとカツサンドを買い、クルマの通らない錦橋のベンチで、食べる。漆黒に染まった土佐堀川に、ネオンが映える。
時間もちょうどいい頃だ。しかし連絡がないので、チケットを取ってくれたJUNTY氏は、仕事が長引いているのだろうか。さすがに大阪のダフィーは、フェスの入口近くまで入り込んで商売をしている。しかし、それもエスカレーターから先には入らない。さあ、会場入り。入口では、念入りに荷物チェックをされた。係員は、クラッカーも禁止されていますなどと言っている。早速販売品のチェックである。何?自主制作CD。これって、もしかして、幻の『Add Some Music To Your Day』だろうか。何しろ現物を見るのが初めてなので、よくわからないのである。
席は、2階、P列、後ろから2列目だ。ここまで来ると、傾斜が強い。しかし、心なしかステージは他の会場よりも、近いような気がする。そうしているうちに、JUNTY氏登場。実に7ヶ月ぶりの再開である。ここで打ち合わせていたことがある。それは、会場のカフェで、「ドーナツ」を食べることであった。J氏は何も口にしていなかったらしく、お腹がとても空いていたらしい。しかし、ドーナツは売り切れ。ドーナツソング体験は、未遂に終わる。
そして、ほぼ定刻通りにライヴは始まった。達郎お得意のアカペラひとり多重コーラスのテープを流して、メンバーが入ってくる。セットは、ビーチリゾート風で、両側に建物があり、コーラス隊は、バルコニー風のところに位置している。達郎の立ち位置は、丸く柵で仕切られている。達郎は青いシャツと同色のスラックスである。そして、ギターを手にして始まったのが、「Sparkle」。達郎がブレイクした頃からのファンには応えられない曲だ。続いて、「Daydream」何とも古い曲を。ここ、曲の途中で、♪見渡すと〜色の〜Parade♪というところで、まわりをくるっと振り返る仕種が入る。
「こんばんは、大阪!7年振りの、大阪。フェスティバルホールに戻ってきました」というのが第一声。早くも、声がうわずっているのか、息切れしているような印象である。最後まで体力が持つのだろうか。しかし、周囲のファンは、大喜びである。それでも、年齢層が高いためだろうか、誰も立ち上がったりしない。ツアーメンバーは、ほとんどレコーディングのメンバーと同じ。達郎の後ろには、ドラムの青山純とその右側に、ベースの伊藤広規。古くからのメンバーである。ドラムの左には、我らがコロちゃんこと、ギター佐橋佳幸。なんと、今年あちこちで目撃して、8回目となる。ステージの両側にキーボーディスト2名。左に、シンセサイザー系の重実徹。右には、ピアノ系の我らが難波弘之。相変わらずのちりちり頭だ。サックスの土岐英史さんは、コロちゃんの後ろである。そして、コーラス隊、esqとして、活動中の、三谷泰弘佐々木久美、レコーディングには参加していない、国分友利恵
達郎のMCはかなり長い。後半は、「ドーナツ・ソング」のイントロのドラムが被さって、会場のグルーブを嫌が上でも高めている。そして、曲の後半では、観客に手拍子を要求するようなラップ風のかけ声。最後は、「Iko Iko」の数節のフレーズを交えて。佐橋佳幸のギターソロも印象に残る。
懐かしい曲が次々に繰り広げられる。「Paperdoll」。しかし、なかなか曲のタイトルが思い浮かばず、自分としては苦戦である。この曲でも、コロちゃんのソロが聴けるが、メドレー方式で、達郎のギターソロ、難波さんのピアノソロと続いた。
再び、達郎のMC。今度はステージ前に設置されたモニターよりも前に出てきて喋る。それによると、7年振りのツアーで、体力に自身がなかったようなことをほのめかしている。「この前のアルバムが、38歳のとき、今度45ですからね。こんな歳になってまで、レコード出して、ツアーもやるなんて、思ってもいなかった」とのこと。ということで、今回はリハビリツアー。アルバムの曲は現時点でライヴ化するのは難しく、少しにとどめたとのこと。そのかわり皆さん(と自分)の馴染みの曲で構成しているという。とにかく、この日は「7年振り」「デビューして25年」という言葉をやたらに繰り返す。感慨深いものもあるんだろう。達郎の喋りは更に長くなった。この時点で、バックのメンバーは何事か談笑中だったり、水分補給などもしている。
その少ない『Cozy』からの曲で、「群青の炎〜UltraMarine Fire〜」。ここでは、達郎ヴォーカルに専念。ギターを外す。観衆は静かに楽しんでいるようだ。まだ誰も立たない。また、達郎の話となる。やはりキーワードは、「7年振り」「25周年」「昔は30過ぎたら、アレンジャーとか、レコード会社のプロデューサーなんかになっているんだろうと思っていた」「でも、体型や声なんかも変わってないのに、髪の毛だけはねえ…(爆笑)」達郎の髪の毛だが、ライトが当たるとかなりやばいような状態。頭頂部がかなり薄くなっているのが、この位置でもはっきりとわかるのだ。それでも、25年間髪型だけは変えていない。最初は手探り状態で行ったこのライヴであるが、ツアーが進行していくうちに少し自信がついたらしい。レコーディングアーティストというだけでなく、ライヴ活動も今後続けていくことを明言している。「58歳でやめるなんてことは言わない。おそらくいつまでもやっていく」とは、ユーミンこと松任谷由実が先日コメントしたことに対する挑戦のようでもある。それにしても、この二人やはり犬猿の仲なんだろうか。
次のコーナーからは、更に昔の曲を。シュガー・ベイブ時代の『Songs』に収録しなかった「こぬか雨」を。そして、『Circus Town』の「夏の陽」。ここでは、「ヘロン」も少し交えて演奏。そして、ギターを換えて、「風の回廊(コリドー)」。昔、インテグラというクルマに憧れながらも、手が届かずにシティというクルマのカーステレオで我慢していたことを一瞬思い出す。
「25年もやっていると、だんだんファンの方々も落ち着いてきて、ご夫婦の方も多くなりました。そんな方に捧げます」と言って、難波さんの横にあるエレビに座って演奏したのが、「潮騒」である。そうしたしっとりした曲のあとの喋りでは、感慨に浸っている暇がなく、大阪の前の地方都市の会場の悪口もさらりと言ってのける。「いや、ここ大阪フェスティバルホールは、最高だよ」とこちらを持ち上げるのだが、幾分引っかかりを感じるのも事実である。この後、東京では、達郎はどんな喋りを見せてくれるのか、ちょっと楽しみである。
そして、アカペラコーナーへ。大阪で気分のいい達郎は、「今日はいつもなら、2曲なんですけど、3曲やってしまいましょう」と上機嫌。ここでは、「Stand By Me」「Close Your Eyes」「Chapel Of Dreams」を歌う。もちろんバックは、達郎お得意のひとりアカペラ多重録音テープである。ここでは当然生声で歌うのだが、達郎の歌い出しから始まるものもあって、バックとシンクロさせるのがとても難しいものではないかと思う。このあたりも長年やってきているはずなので、そのあたりのテクは十分に積んでいるはずだが、バックがテープということもあって、この位置からでは実際に歌っているのか気になる。まあ、達郎のことだから、「口パク」ということはないと思うのだが。この間、バンドとコーラスは休憩である。
見事に計算された中間の盛り上がりである。この後、マイクを取って、ステージ前に。気分が良くなった達郎、思わず、「来年は、竹内まりやのアルバムをやって、年末には、『On The Street Corner 3』を出したい。オーケストラとコーラス隊をバックにアカペラコンサートも行いたい」との構想を明らかにする。そして、「Smoke Gets In Your Eyes」。このあたりは、ディナーショー状態。最前列からは、花束も渡された。頭も「年輪」を感じさせるし、なんだか重かったなあ。
そして、アカペラのテープをバックにメンバーが入場。曲は「White Christmas」の導入から「クリスマス・イヴ」である。そのテープにあわせつつ、例のイントロが始まるのだが、これまた難しいであろう。このあたりはリハーサルも大変だったのではないだろうか。ということで、イントロ担当のコロちゃんには相当の負担であると思う。初参加であるが、彼のギターテク、達郎のお眼鏡にかなうくらいであるから、やはり相当なものなのであろう。印象的なコーラスは、シングル曲と同じく、達郎のひとりコーラスであった。
今度は、難波さんのピアノのソロから始まる。「蒼茫」。後半部では、やはり佐橋佳幸のギターソロが挿入される。達郎としては、かなりお馴染みのメンバーであるが、正式なバンドではないこともあってか、サポートメンバーへの声援は聞こえない。達郎の名前を呼ぶ者もいないのだが、静かな盛り上がりを見せていった。これが大人のファンというものか。
メンバー紹介では、昔メンバーを引き抜かれたとこぼし、そのため「Get Back In Love」のイントロを弾けるキーボーディストがいなくなって、メンバーが集まるまで、ツアーを延期したとの前科を明らかにする。人呼んで「飛ばしの山下」だとか。
その「Get Back In Love」が終わり、再び長いMC。この最中に、会場にいた子供が泣き出す。それにあわせて、子供を「よしよし」とあやす達郎である。打ち込みのパーカッションから始まる、「メリーゴーランド」。会場が次第にヒートアップしてきた。そして、いよいよ「Let's Dance Baby」。そそくさとクラッカーを取り出すディープなファン。その瞬間は、フェスの暗闇が閃光に包まれ、綺麗であった。しかし、「しつこいな」と曲中につぶやく達郎。とは言いながらも、嬉しそう。
そして、「Loveland Island」で、誰もが立ち上がる。達郎はテンションも上がってきたのか、ギターの弦を切っていた。その瞬間に、ローディが素早く次のギターを用意して、達郎に渡すのだ。ラストは、コミカルに用意していたメガホンで、外すように歌った。一度これをやってみたかったらしい。この曲でいったんメンバーは退場となる。即、アンコールを促す拍手。
達郎たちはかなり早いインターバルで出てきた。シャツを取り替え、白になっている。まあ、達郎はプレイ中はそれほど動かないので、それほど長いブレイクを取る必要はないのであろう。「パレード」「Fanky Flashing」と続き、をを聴いてみたかった、「硝子の少年」達郎ヴァージョンである。もちろん、掛け合いではなく、全部のパートを達郎が歌う。Kinki Kidsほどさらりと歌ってはいないものの、このあたりは新しいファンへのサービスなんだろうか。もっとからみつくような歌い方をして欲しいものである。
そして、「Bomber」では、珍しく、前に出てきて達郎のギターソロを聴かせてくれる。達郎の動きが少ないことの証拠に、ギターがワイヤレスではなく、シールドで繋がれていたことがわかった。これでは動き回れるはずもないが、それにしてはよく弦を切るのが目立つ。後半は、メドレー風に、「Fanky Flashing」のフレーズがプレイバックされる。
そして、「Ride On Time」。達郎ブレイクのきっかけとなった曲で当然熱いプレイが演じられる。しかし、山場は後半にあった。あの象徴的なサビをスローにしてひとり声を張り上げて歌う。さらには、自らプレイバック。今度はギターを外して、アカペラで歌う。更に、ステージの後ろに高い脚立を用意させ、ここに上がるのだ。ちょうど達郎の顔の位置とこちらが水平になるくらいである。これをマイクを通さずに聴かせるのだ。見事。これを降りて、難波さんの横でも。
ラストは、ひとりで「Your Eyes」。ステージの前に出て歌う。おそらくファンクラブの仕込みであろう女性たちが、いくつも花束を用意して、手渡す。やはり嬉しそう。声量を確かめた達郎も、満足そう。満面の笑みで退場。どうしてディナーショーのような終わり方をするのか、疑問であるが、これはこれでなかなかかっこいい演出である。
ショーは終わった。後日確認したところでは、曲順や、MCの内容、冗談から何から、ほとんど同じである。すべてを計算し尽くしていないと、満足できないのか、達郎。再び東京に登場したとき、少しは感じを変えておいてくれよ。
評価★★★★

以上、1998年のログを残しました。この時、山下達郎のライヴ初体験でしたが、彼は、セットリストをあまり変えないということが後に判明しました。それでも、東京公演の時には少し入れ替わっていましたが。そのため、彼の話す内容もすべて台本があるように、あまり変わっていません。また、前の会場をけなすような話も、全くの本音ではなく、そこにいる人たちをいい気分にしてあげようということであると思われます。それにしても、彼の担当するラジオ番組、「サンデー・ソングブック」のロングヴァージョンみたいな感じではありました。
このあと、山下達郎は、予告通り『On The Street Corner 3』をリリースし、竹内まりやのフルアルバム、自身のRCA/Airレーベル時代の作品のリマスターなどを手がけています。という間に、何年もたってしまい、自身のオリジナルアルバムは今のところ出ていない状態です。

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