斉藤和義 "Because I'm Free"Tour 渋谷公会堂 1998/4/20

いつか、ニフティの方で、ナイアガラトライアングルVol.3にふさわしいシンガーは誰かという企画を思いついた。いろいろな意見が寄せられたが、その中に斉藤和義の名前があった。早速、ニューアルバムがでたのでゲットして聴いてみる。最初の出だしから、「どこか懐かしい匂い」に引き寄せられ、お気に入りの人に。そして、早い段階でのツアーが決まり、早速渋公の公演をゲットした。

夕暮れ迫る、渋谷公会堂だが、すでにかなり陽が延びだしている。渋谷区役所前広場には、相当数の若者が集まってきている。スーツ姿の人はほとんどいなくて、学生なのだろうと想像。それも、山の手風の坊ちゃん、嬢ちゃんではなくて、どちらかというとちょっと崩れかけたようなタイプといおうか。夕方になるというのに、サングラスをかけたものも多い。
やっとドアが開かれた。座席は、2階席で右側の壁寄りの2番目。かなりはずれた位置である。徐々に観客が集まりだした。BGMがいかにも斉藤和義で、「Wild Horses」「Beast Of Burden」のカバーが流れている。観客はあまりカップルで来たものは多くなく、男同士、女同士の友人二人連れなんてケースがよく目立つ。館内は満席。早くも熱気が漂う。
舞台も暗転して、男が二人登場。ひとりは、ドラムセットに座る。もうひとりは、こちらから向かって左手のエレビの位置につき、スポットが当たる。「I'm Free」。ドラマーは『The Barn』ツアー(註・佐野元春のツアー)を終えたばかりの小田原豊(註・当時斉藤和義と初共演、当時は佐野元春のThe Hobo King Bandのドラマー、ex レベッカ)で、この人との掛け合いだ。小田原アニキのヴォーカルも、ここぞと爆裂だ。それにしても、斉藤和義の弾くピアノのフレーズは、かなりのものである。以前読んだ雑誌によると、「だって、俺楽器の演奏好きだから」とのことだが、ホント顔に似合わず器用なのである。
2曲目の「年末来年」でバンドのメンバーが登場。中央に斉藤和義。ベージュに見える光る生地のスーツに、白いシャツを着こなしている。今度はギターを手に取った。遠くから見るとこの人は大きく見える。ステージ映えがするとでもいおうか。実際はそれほど大きな人ではないと思うが、なかなかすらっとしていて足も長く、かっこいいのである。斉藤の右には、ベースの湯川トーベン(ex 子供ばんど)。左には、ギターの石坂和弘。この三人の足下には、輸入物らしき絨毯が1枚ずつ敷かれている。バックは、中央にドラムの小田原。その右にキーボードの片山敦夫。左には、パーカッション及びブラス担当の佐野聡(ラリちゃん)。この三人は、長持ちのような箱を重ねたものに乗っている。
やがて、「幸福な朝食 退屈な夕食」へと。をを、いきなりのオープンG(註・斉藤の敬愛するRolling Stonesのキース・リチャーズが弾いていた、チューニング)で、やってくれるぜ。斉藤和義のギターは、やはりキースを意識したものなのだろうが、かなりストラップを緩めにしている。こうすると、ギターを弾くスタイルがルーズに見えて、いかにもキース風。
「イェ〜イ!こんちは〜っ!お久しぶりでございます」そんな初めてのMCに、観客からは黄色い声の「せっちゃん」コール(註・せっちゃんとは、斉藤和義の愛称。なぜこう呼ばれるかは、ここでは割愛する。知りたい人はメールでもください。)が何度も。1階席に、斉藤をアイドル的に捉えるちょっとブッ壊れたファンがいるようだ。
ステージには、天井にシャンデリアがつるされ、壁には燭台風のものも。そして絨毯に長持ち。確かに古ぼけた金持ちの屋敷のような雰囲気(註・直前にこのツアーを神戸で見ていたJUNTY氏による)である。斉藤は曲ごとに楽器を持ち替え、ある時は、アコギ、ある時はエレピ。また、ハーモニカホルダーをセットして、ギターを弾くこともある。彼の演奏を見ていて、ホントに楽器が好きなんだなあということが伝わってくる熱演。曲によっては、ヴォーカルがついて来れない部分(「ジユウニナリタイ」)もあったが、演奏の方は、多少アルバムとはアレンジを変えているところもあるものの、アルバムの雰囲気を崩さずそのままの高いパフォーマンスを繰り広げている。
圧巻だったのが、「さよなら」「決断の日」「男と女」と続く『Because』からの曲。「さよなら」では、楽器を手に取らず、ヴォーカルに専念。オーケストラの部分は、ラリちゃんのトロンボーンと、シンセで再現である。ちなみにラリちゃんは、トランペットと、フルートも吹くし、小型のシンセも演奏する。The Hobo King Bandの kyon(註ex Bo Gumbos、ピアノのみならず、ギター、マンドリン、アコーディオンすべてにおいて一流、これらの楽器だけでもバンドで食っていけるが、これらを掛け持ちしてしまうところがすごい。ちなみに、京大出。)ではないが、まさに「色々な楽器状態」。頼もしいマルチプレイヤーである。小田原アニキも JAZZYなドラミングで、ビッグバンド風な音を出すことに成功している。エンディングは、マイクのコードをつかんで、ぐるぐると振り回す。
「決断の日」は弾き語りヴァージョン。またこの独りギターがとんでもなくいいんだ。アコースティックな音であるが、ギターの持つ表現、熱い想いといったものが上手く出せていたと思う。人は、こういうシーンを見て「ああ、俺もギターやりたいなあ」と思うことも多いと感じた。
「男と女」では、エレキに持ち替えて、キーボードとの掛け合い。ここでは、早弾きを見せることはなかったものの、この曲の持つ気怠さをギターのフレーズで表現している。
最後の曲の「歌うたいのバラッド」に入る前、勢いあまって、マイクスタンドにぶつかって、場内の失笑を買うが、せっちゃんコールがそれをかき消してしまう。このサビの部分、一瞬音が止まり、斉藤のヴォーカルで再開するところがあるのだが、その一瞬の間では、場内はしーんと静まり返り、誰もが息を止めて見守っていたと思う。
アンコールでは、ビール片手に登場。これはもはやお約束なのか。シャツを着替えて、紺のTシャツ姿である。
「HALF & HALF(ビールのブランド)、イェ〜イ!」これには場内学生が多いためか、一気を要求。それを飲み干す斉藤。これには、「酔っぱらい」コールも。
「このコーナー1曲何やるか決めてるんすけど、みんなのリクエストに応えたい」
ということで、色々な声がかかるが、なかなか決まらない。最後は指差して、訊いていくが、
「んー、いいんだけど、それは忘れちゃったからだめだな(爆)」
またもや訊くものの、斉藤「あー」とか「うー」とか、いまいち決められ切れないでいる。まさに「煮えきらない男」状態。
「じゃあ、『引っ越し』にしよう。これ、札幌でやってるけど、弾き語りヴァージョン良かったし、1回しかやってないからね」ということで、この曲を椅子に座ってアコギで。
「実は引っ越したばかりでさ。近くに右翼の本部か何かあるところで、昼間から公安がうろちょろしてる。んで、引っ越したとこも、誰もいないときに大家が合い鍵で部屋とか入っているみたいだし。もう、最悪の引っ越し運」どなたか、せっちゃんに安住の地を。
続いてメンバー紹介。小田原アニキは、金沢でセッションしたから、友だちなのだそうで。そのアニキも片手にビール持って白いTシャツに着替えて登場。次の曲を相談。これもうだうだと。
最後に「PAPARAPA」の声がかかる。しかし、レコーディングに参加してないアニキは、知らないレパートリーらしく、「○○な感じで」でOKサイン。斉藤も楽器を置いて、マイクつかんでの熱唱である。しかし、後半ビデオカメラにキックを2回かますし、タオルを最前列に投げつけ、さらには、グラスの水をやはり最前列に向かって浴びせてしまう。最後は、マイクスタンドブッ倒してとうとう切れた。「斉藤、もっと暴れろ」コール。最前列には、かなりブッ壊れたディープなファンがいたようで、「オメーら、もういいよ!」との言葉を吐き捨てる。
だが、決まっていた曲がまだ。最後はこれしかないでしょう。「月影」。一瞬切れた斉藤だったが、演奏になるとやはり冷静になるのか、落ち着きを取り戻す。最後の最後はハーモニカを客席に投げ入れて終了。メンバー揃っての舞台あいさつ。終了は、20:50。
Set List
I'm Free/年末来年/幸福な朝食 退屈な夕食/僕の見たビートルズはTVの中/蝉/郷愁/さよなら/決断の日/男と女/老人の歌/君の顔が好きだ/Hey! Mr.Angryman/すっぱいぶどう/僕の踵はなかなか減らない/煮えきらない男/ジユウニナリタイ/歌うたいのバラッド
(encore)引っ越し/歩いて帰ろう/PAPARAPA/月影
評価★★★★

以上、1998年のログを残しました。その後の斉藤和義は、レコード会社を移籍し、SEVEN名義で小田原豊、伊藤広規とのバンドを結成してます。もちろん、ソロ活動も主体に行っていて、アルバムもリリースされていますが、このころが一番脂の乗っていた時期かもしれない。ライヴのテンションとしては、それほど変わらないでしょうが、アルバム収録の曲の勢いみたいなものが違ってきているなと感じてます。とはいえ、斉藤和義のライヴパフォーマンスは、大したものです。いつ見に行っても、満足できるものだといえましょう。

ライヴレポートに戻る

TOP INDEX