01 方向音痴(知久寿暁/知久寿暁/たま)
02 おるがん(知久寿暁/知久寿暁/たま)
03 オゾンのダンス(柳原幼一郎/柳原幼一郎/たま)
04 日本でよかった(滝本晃司/滝本晃司/たま)
05 学校にまにあわない(石川浩司/たま/たま)
06 どんぶらこ(柳原幼一郎/柳原幼一郎/たま)
07 ロシヤのパン(知久寿暁/知久寿暁/たま)
08 さよなら人類<オリジナルヴァージョン>(柳原幼一郎/柳原幼一郎/たま)
09 ワルツおぼえて(滝本晃司/滝本晃司/たま)
10 らんちう(知久寿暁/知久寿暁/たま)
11 れいこおばさんの空中遊泳(柳原幼一郎/たま/たま)
AXCR-1
1990/07/10発売
Produce:たま
たまというバンド、TBSの「いかすバンド天国」、通称「イカ天」に89年登場し、あれよあれよというままに5週勝ち抜き、グランドイカ天キングとなったバンドである。この番組、バンドブームを生み出し数多くのバンドが世に現れるきっかけとなったのだが、今でも健在なのはこの「たま」と、「ビギン」、「Blanky Jet City」、「Little Creatures」、「人間椅子」くらいなのではなかろうか。(註・ブランキーはすでに解散してしまった。2001-12-23追記。)
さて、そのたまであるが、イカ天登場時から異質な輝きを放っていた。というのも、番組自体に登場するバンドがおしなべてロック・ポップスの範疇に含まれていたからである。たまはそのようなカテゴリー分けが不可能なバンド。ギターとベースがあるのは普通だが、パーカッションは、木の桶であったりする。そして、知久寿暁は、時にはマンドリン、柳原幼一郎は、オルガン、アコーディオン、ピアノ、ギターをこなすマルチプレイヤーだったりする。そして、知久と柳原という二人のリードヴォーカリストがいるという、深さ。そして、ビジュアル面でも、知久の下駄履き、半ズボン、ちゃんちゃんこのようなベスト、カツラを乗っけたような独特のヘアースタイルは、まるでどこかの漫画から飛び出してきたキャラクターのようだし、石川の長靴、半ズボン、ランニングシャツ、坊主頭という、山下清のような姿は、嫌が上でも印象に残ってしまうのである。
しかし、このイカ天登場は、アマチュアとして吉祥寺の曼陀羅などで実績を踏んでいた彼らをイカ天スタッフの要請により成立したものだったらしい。初登場では賛否両論だったものの、やがて審査員の心を掴みだし、5週勝ち抜き。最後の相手は、「マルコシアスバンプ」であった。そして翌年デビュー。これがファーストアルバムである。彼らのブームは全国的にも波及して、その年の紅白歌合戦にも出場してしまうという、今となっては信じられないことが起こる。現在のたまは、柳原の脱退により、トリオ編成である。それにしても、デビューアルバムにして、4人だけで作り上げたアルバム。スタジオミュージシャンが加わっていないということは、無名だった彼らにしては、相当の力が見込まれていたということだったのではなかろうか。この頃は、日本の音楽状況もいい傾向が続いていたのだが。
曲解説
- 方向音痴
- 知久寿暁という男、キャラクターもそうなのだが、現実世界に起こった出来事とはかけ離れたことを歌にするようである。ここでも、「ギロチンにかけられた/人魚の首から上だけが/人間だか人魚だかわからなくなっちゃって」というフレーズがある。しかし、本人によると、特に詞に意味はなく、メロディに合えばいいのだとか。言葉遊びを楽しんでいる部分もあるようだが、こうした一種グロテスク趣味のようなものを見せつけられるのが、たまの世界でもある。
- おるがん
- 1曲目と同じく知久の曲。これまた、昔懐かしいような日本人の感性を揺さぶるような味わいがある。
- オゾンのダンス
- 一転柳原の曲で、アルバム中もっともポップな感じがする曲だ。イカ天3週目、この曲で挑戦者を破っている。柳原も、知久と同じように、懐かしい感じのする言葉を多用する。懐かしいといっても、「印度の男に教わった/コブラの笛が合図だよ」などという、昔の物語で知ったようなことが登場するのであるが。たまの曲は二人のヴォーカリストがいることで、深みを増している。柳原のヴォーカルに会わせて、知久がコーラスを取る。ここがなんともいえない独特の世界を繰り広げているのだ。
- 日本でよかった
- ベーシストの滝本の曲。たまは、それぞれが弾き語りをしていて出逢ったそうだが、この人の曲も入れておこうということなんだろうか。他のメンバーの曲に比べて毒は感じられない。
- 学校にまにあわない
- こちらは、パーカッションの石川の詞による曲である。作曲「たま」となっているが、石川の詞があってはじめて成り立っている曲だ。なんといっても、7分もあるのだから。夢と現実が一緒になってしまったような独特の世界。決してシングルカットはされないだろうが、アルバム中もっともインパクトのある曲かもしれない。後半のシャウトが、石川浩司がただの人の良さそうな男ではないことがわかって意外かも。
- どんぶらこ
- こちらも、相当シュールな世界の話だ。お腹の大きな女たちが川の中を流れてきて、それをボクサーがサンドバッグがわりに叩くという話。
- ロシヤのパン
- こちらは、イカ天4週目に披露した曲。知久のヴォーカルが、意図的に一瞬1オクターブ高くさせ、声をひっくり返すワザ。これは彼にしかできないことかも。石川の合いの手のように入るバックコーラスが曲に相当インパクトを与えている。
- さよなら人類<オリジナルヴァージョン>
- こちらも、イカ天2週目の勝ち抜き曲。と同時にデビューシングルとなった。もちろんたまの代表曲で、シングルヴァージョンの方は、オリコンチャート1位獲得というから、当時は相当流行ったのであろう。ちなみに、たまでも、CMタイアップしていて、焼酎メーカーのイメージソングとなった。出来の方だが、アルバム収録のこちらの方がいい。中間部の全員によるコーラスが秀逸。
- ワルツおぼえて
- こちらの滝本の曲は、けだるいシャンソン風でもあるのだが、たまの持ち味の入った詞も含まれている。つまりただの綺麗な曲ではないということ。毒も含まれている。
- らんちう
- イカ天初登場の時の曲。「さよなら人類」とカップリングで、シングル化された。ちなみに、こちらもCMタイアップしており、製鉄会社のイメージソングである。曲の方は、知久の怪しさ爆発といったところ。この曲でのイカ天登場正解であった。ビジュアル面とともに、目のすわった知久の歌う姿は、相当危ない。途中で入る柳原のセリフも効果的。シングルヴァージョンでは、このセリフが違っている。それでも相当怖い。
- れいこおばさんの空中遊泳
- 柳原と知久によるツインヴォーカル。これが見事にぴたっとはまっている。冒頭にカウントがあることから、ほとんど一発録りなのだろうか。そんな雰囲気さえ感じされる。クレジットを見れば、ひとりで複数の楽器を担当していることから、そんなことはないと思えるのだが。