01 正しい街(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
02 歌舞伎町の女王(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
03 丸の内サディスティック(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
04 幸福論(悦楽論)(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
05 茜さす 帰路照らされど…(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
06 シドと白昼夢(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
07 積み木遊び(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
08 ここでキスして。(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
09 同じ夜(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
10 警告(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
11 モルヒネ(椎名林檎/椎名林檎/亀田誠治)
TOCT24065
1999/02/24発売
Produce:山口一樹
98年、「歌舞伎町の女王」が耳につくようになる。こうしたデビューともなるとまた色物っぽいのがでてきたという捉え方を去れがちで、実際筆者もそのようなものだと思っていた。とはいえこのデビューアルバムは発売と同時に購入したのだが、それはカラオケで流れたこの曲のクレジットが彼女自身であったからともいえよう。
一通り聴いてみて、正直言ってびっくりした。これは今までにないタイプの才能だと。CHARAやMISHAに代表される、ディーバ系のフィーメールヴォーカリストたち。はたまた、宇多田ヒカルに代表される、R&B系(はっきりいって、リズム&ブルースはそういうものではないと確信しているが)のフィーメールヴォーカリストたち。このいずれにも当てはまらないし、いささかそのようなステレオタイプには食傷気味であったことも確かである。
99年に入り、椎名林檎はともさかりえなどに曲提供したり、CMなどにも曲が使われはじめている。どちらかというとステレオタイプに流れがちな、この業界の悪い癖をいくらかでも引き戻してもらいたいものである。その後の社会現象として、セカンドアルバム『勝訴ストリップ』がなんと、オリコンチャート1位を獲得するということに。そして、妊娠を告白。結婚へと至り、現在休養中(2001-12-23追記)。(2003/04/20追記:また、第一子の父親であるバンドのギタリストと結婚後、衝撃的に離婚。相変わらず、スキャンダラスである。それにしても、このファーストアルバムリリース時まだ、20歳であったというのが、ある種天才である。)
曲解説
- 正しい街
- 何気なく聴いていると耳につくのが、彼女の韻を踏むヴォーカルが一番印象に残る。そして、冒頭から一転して、曲調の変わる展開。さらにサビでは、再び曲調が変わり大きく盛り上がる。これだけでも、彼女のポテンシャルがわかろうというものだ。
- 歌舞伎町の女王
- なんだか危ない世界の曲ともとれがちだ。椎名林檎の一人称は、すべて「あたし」である。そして、ほとんどの曲では「あたし」が中心となって歌われることから、歌い手イコール登場人物のような虚構のロジックに陥ってしまうのだろう。その一見投げやりそうな歌い方と発声法から、まさに歌舞伎町の女王的なタイプと見なされがちなのだが、すべては彼女の計算ずくのものなのではないだろうか。そのような虚構に聴くものを陥らせてしまうパフォーマンスはさすがだ。
- 丸の内サディスティック
- もうほとんど歌詞に意味はないと思われる。あるのは冒頭の二行のみ、「報酬は入社後平行線で/東京は愛せど何にもない」というところか。しかし、ノリのいいチューンがそんなことは見事に忘れさせてくれる。サザンの曲にも同様の意味のない歌詞があるが、あちらは随所にセックスを感じさせる言葉を意図的に散りばめている。こちらの意味のない歌詞は、それでも聴くものにとって、椎名林檎のメッセージ性を感じさせるからとんでもないパワーを秘めた曲といえよう。
- 幸福論
- デビュー曲。これがCMに使われた曲。サントリー・カクテルバーだったか。ヴォーカル部分は、ヴォコーダーを使って、雑音の入った処理になっている。もうひとつの特徴的なものが、吐息を使った効果。とにかくこのようなタイプは、はじめてである。
- 茜さす 帰路照らされど…
- こちらも引き続きサントリー・カクテルバーのCMに起用された曲。最後の部分は、英語詩となっているが、椎名林檎という名前、ビートルズのアップルレコードから取ったということで、そのあたりの洋楽を死ぬほど聴いていたんだろう。ビートルズフリークといえば、だいたいがオリジナリティに影響をもたらすものだが、彼女の場合は必ずしもそうでないところがさすがだ。また、このようなバラード調のものもいけるとなると、その若さにして曲提供も問題なくこなせるのだろう。
- シドと白昼夢
- ジャニス・イアンが登場する。シドは、シド・ヴィシャス(Sex Pistols)のことだろうが、具体的には表していない。それは白昼夢の部分でシド&ナンシーのことを自分になぞらえているのだろう。
- 積み木遊び
- ここでの歌詞の一部分にやはり意味のない言葉が使われているのだが、言葉遊びのようにも感じられる。また、旧仮名遣いや文語調の言葉もあり、椎名林檎かなり文学的耽美派でもありそうだ。
- ここでキスして。
- またしても登場する、シド・ヴィシャス。椎名林檎のビートルズとのつながりを前に述べたが、彼女の(アルバム制作時点で)20歳というその人生よりも遙か前の音楽的先達のことも歌ってしまうことは、かなりの影響があったものと考える。彼女がプレイするのは、アルバムクレジットでは、ピアノ系のキーボードとドラムだが、プロデビュー以前の音楽的キャリアはどうなんだろうか。おそらく様々な経験を積んできたものと思われるのだが。イントロなしでいきなりブレイクする英語のサビが印象的である。
- 同じ夜
- ここでのヴォーカルは、一行の詩の中で様々な表情を見せるように感じる。彼女の音域のせいもあるのだろうが、なかなか面白いと思った。
- 警告
- ロックタイプの曲。きっとバンドを従えてやるとかっこいいだろうなあ。このアルバムでは、起用アーティストのセットが3種類あり、それぞれに名前が付いている。これは、「絶頂ヘクトパスカル」という名前で、「歌舞伎町の女王」と同じである。途中の呼吸音を使ったSEの挿入も効果的。
- モルヒネ
- タイトルとは裏腹に、シンプルなミディアムチューンである。脳内モルヒネなどの自己陶酔のことを歌っている。