01 1 West 72 Street NY NY 10023(小山卓治/小山卓治/前田一郎・The Conx)
02 Film Girl #2(小山卓治/小山卓治/前田一郎・The Conx)
03 カーニバル(小山卓治/小山卓治/前田一郎・The Conx)
04 Illusion(小山卓治/小山卓治/前田一郎・The Conx)
05 朝まで待てない(阿久悠/村井邦彦/前田一郎・The Conx)
06 Heat Of The Night(小山卓治/小山卓治/前田一郎・The Conx)
07 Aの調書(小山卓治/小山卓治/前田一郎・The Conx)
08 No Good!(小山卓治/小山卓治/前田一郎・The Conx)
09 西からの便り(小山卓治/小山卓治/前田一郎・The Conx)
32DH469/SRCL1835
1983/06/22発売
Produce:前田一郎
小山卓治という男、1983年のデビュー。とにかくデビュー作にしていろいろ問題提起を含む作品群、一部ではかなり取り上げられたような印象がある。とはいえ、筆者はその存在は知っていたものの、実際に曲を聴いたのがかなり遅く、近年になってからである。全アルバムを聴いてみても、この作品はかなり深く心に残った。
小山卓治は熊本出身のシンガーソングライター。デビューまでは九州で過ごし、バンド活動などもやっていたらしい。ルーツとしては、ジョン・レノン、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーンなど本人も語っていることだが、街の風景を曲の主人公に投影して語っていく手法が取られていることから、佐野元春との類似性も一部に指摘されたものである(聴いてみるとまったく違うのだが)。元春の「Rock'n Roll Night」を実際聴いたときには、「正直言ってやられたと思った」とも語っているエピソードもあるくらいだ。
一聴するととても暗い歌詞の内容。しかし、ここでの歌い手はたとえ一人称であっても、その実体験に基づくものばかりではなく、単なるストーリーテラーとして淡々と語って行くに過ぎないのだ。そうでないと小山卓治という人かなり悲惨な人生を送ってきたことになってしまう。ある人は彼のことを「光と影の詩人」と表現した。言い得て妙である。
アルバムでは、The Conxというバンドをバックに従え演奏している。これは小山のバックバンドではなく、独立して存在したバンドらしいが、事務所の方針として小山をサポートしたらしい。だが、ここで盟友スマイリー松本に出会うのである。アレンジの前田一郎は、RC サクセションなどもかつて担当し(清志郎には酷評されている)ている。先行シングルでは違うアレンジャーがついていたのだが、アルバムでは変えてきていて、当時の事務所の力の入り具合がわかろうというものだ。
近年になってからの小山だが、寡作である。しかし99年になってから小説も執筆し、ツアーも行うなど動きを見せてきた。正直言って20世紀中に次のアルバムが聴きたいところだ。なぜなら、このようなミュージシャンは最近淘汰されつつあるから、たとえ売れない作品であってもきらりと光るものを見せてもらいたいからである。その後、インディーズレーベルより、「Yellow W.A.S.P.」の再リリース、、ベストアルバム『Stories』をリリース。いつになく、活気づいていて、ツアーも行っている。これで、メジャーと契約してくれれば、かつての作品も再びリリースされると思うのだが(2001-12-23追記)。
曲解説
- 1 West 72 Street NY NY 10023
- タイトルは、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの住んでいたダコタハウスのアドレス。ファンの間では、「ニューヨーク・ニューヨーク」で知られいてる。オープニングはハーモニカとギターにあわせて淡々と歌われるが、ブレイク後はピアノをはじめとする各楽器が次第に被さっていき、厚みを増していくというもの。6'44"もある大作である。
- Film Girl #2
- わざわざ、#2と銘打ってあるのは、シングルのアレンジが違うためである。それがデビューシングルであったが、まったくヒットチャートには上がってきていない(というより小山卓治のシングルは、オリコンチャートのTop100にすら入ったことがないのだ)。なんだか芸能界の裏側を歌ったような内容だが、モデルとなったのは、当時気に入っていた中森明菜だったらしい。とはいえ両者の接点は全くなかったらしいのだが。
- カーニバル
- セカンドシングル。ストリート・ロッカーという感じだが、当時はまっていたスプリングスティーン調でもある。DAMに唯一入っているカラオケでもある。
- Illusion
- スローな曲調。小山卓治は、必ずしも曲先行でソングライティングをする人ではないらしく、最初に詞ができることも多いらしい。デビューのために東京に出てきた小山卓治がその情景を歌ったものであると勝手に解釈する。
- 朝まで待てない
- アルバム唯一のカバー曲。オリジナルは、モップス。GSの名曲である。当時はマスコミに対して日本人アーティストで影響を受けた人はいないなどと語っていたのだが、近年のライヴの中のMCでは、「昔GSが大好きだった」とも告白している。確かに、GSの中では異彩を放つ曲で、それが小山卓治にあっていると思う。
- Heat Of The Night
- もうどこにも逃げられない状況。何もかもがうまくいかないという絶望的な感じをうまく出した曲。こうした曲調は小山卓治の十八番である。男をジョン、女をヨーコになぞらえているが、トム・ウェイツに通じるものもあると思う。
- Aの調書
- 理由なき殺人事件を取り上げずいぶんと話題になった曲。もっともそればかりがクローズアップされたが、モチーフとなったのは、事実のみだろう。曲の内容などは小山卓治が容疑者の内面を取り上げて進展させていったものだと思う。なんでもこればかり取り上げられて、本人は嫌だったみたいだが。
- No Good!
- シングル「カーニバル」のカップリング曲。かなり疾走感があり、やはりスプリングスティーンぽい作りだ。筆者はかなり好きであるが、惜しむらくは、同じような感じの曲をカップリングしなくてもよかったのではないかという気もする。暗い感じの曲が続いたあとで、元気が出る曲だ。
- 西からの便り
- 熊本という地方都市を題材にした曲。小山卓治にかかると熊本もまるでアメリカンな映画に登場してくる地方都市みたいになってしまうのが、何ともいえない。生まれてこの方東京在住の筆者には、あまり縁のない状況で、そんなものかとも思うが。