Portrait/竹内まりや

01 ラスト・トレイン(大貫妙子/山下達郎/山下達郎)
02 Crying All Night Long(竹内まりや/伊藤銀次/伊藤銀次)
03 ブラックボード先生(竹内まりや/林哲司/林哲司)
04 悲しきNight & Day(竹内まりや/竹内まりや/山下達郎)
05 僕の街へ(竹内まりや/林哲司/林哲司)
06 雨に消えたさよなら(大貫妙子/大貫妙子/乾裕樹)
07 リンダ(竹内まりや/竹内まりや/山下達郎)
08 イチゴの誘惑(松本隆/林哲司/林哲司)
09 Natalie(竹内まりや/竹内まりや/告井延隆)
10 ウェイトレス(竹内まりや/山下達郎/山下達郎)
11Special Delivery〜特別航空便(竹内まりや/竹内まりや/山下達郎)
12 ポートレイト〜ローレンスパークの想い出(竹内まりや/安部恭弘/安部恭弘・乾裕樹)

RHL-8515/B25D13008/BVCR-1045/BVCK-37016
1981/10/21発売
Produce:宮田茂樹/Masaru Murakami/竹内まりや

ついに登場、竹内まりやである。それにしても、ここに取り上げるアルバムには、非常に困ってしまった。何しろ、復帰以降のアルバムには、微塵の完璧さであるし、どれを取り上げるか困ってしまうのである。『Quiet Life』以降長らくブランクがあり、ようやくリリースした『Bon Appetit!』も、これまた傑作である。迷いに迷って、結局取り上げたのが、RCA時代のラストアルバム。ではなぜこうなったのかは、おいおい述べることにする。
竹内まりやのデビューは古く、1978年にまでさかのぼる。この時代、ニューミュージックの台頭、さらには、第二のユーミン発掘なのか、女性が大きくフィーチャーされたように思う。また、大学生のキャンパスライフも雑誌ポパイなどの影響か、盛んに取り上げられることとなっていた。そんな時代背景があって、登場したのが竹内まりやなのである。彼女は、高校時代に交換留学生として、アメリカに1年間学び、帰国しては、慶応のライトミュージックサークルで活躍。英語が話せるというのが売りである。その慶応のサークルからは、杉真理などが在籍していて、一時彼女も、杉真理のバンド、Mari & Red Stripesに在籍していたことがあった。また、都内のライヴハウスなどでも歌っていて、そのときの音源も、リリースされている。見かけとは違って、こっちの世界には強い志向があったものと思われる。
さて、彼女はデビューするのだが、一応ニューミュージック畑ではあるが、主に人の作品を歌うシンガーとして、テレビ番組や芸能人運動大会などにも出るという、位置づけであった。とはいえ、アルバムに入っている曲は、かなり豪華な顔ぶれが揃う、ファンとしては不足のないものである。その後、彼女はレコーディングで出会った山下達郎と結婚することになる。このアルバムは、結婚前に残したファンへの置き土産的なものともいえよう。とはいえ、クオリティは万全である。
その後、しばらくのブランクがあり、全曲山下達郎プロデュース、ほとんどすべてを自分で書いた曲で、テレビなどのメディアには登場しない形の復活を果たすのだが、文句のつけようがないのだが、どちらかというと山下達郎の色が濃い形の作品群となってしまう。そんな中で、彼女の18年ぶりという、ライヴを見たのだが、昔の曲がとても新鮮に聞こえたのも確かである。つまり、このアルバムは、山下達郎テイストだけでない、彼女が最近では滅多に見せない、もう一つの魅力のようなものを放っている作品なのである。おわかり頂けただろうか。

楽曲解説

ラスト・トレイン
上のように書いたのだが、オープニングは、山下達郎の曲。しかし、大貫妙子との共同作業なので、いかにも山下達郎というわけではない。セルフライナーによると、女性ながらThe BandやJ.Gails Bandみたいなサウンドがやれたらとのことだが、何とも彼女のアルトの声にあっているナンバーだ。バックの演奏はほとんど山下達郎関係で占められているが、山下達郎テイストはほとんどないといってよいのではないだろうか。
Crying All Night Long
作曲者の伊藤銀次とのデュエットである。リバプールものをやろうと思っていたそうだが、竹内まりやがやるとこうなるのか。これを大学の先輩である、杉真理に頼んでいたら、さらに違っていたものとなっていただろう。それにしても、銀次の控えめな声が何とも合っている。1曲目からこの曲へと続く感じが最近の竹内まりやにはない味であろう。
ブラックボード先生
林哲司と竹内まりやといえば、「September」以来の関係か(実際には、「想い出のサマープリーズ」という曲が最初)。ここでは、60sの黒人ガールポップ風のテイストである。まりやとしても、キャンパス風の詞をつけている。
悲しきNight & Day
4曲目にして初めて、彼女のオリジナル曲となる。アレンジは山下達郎で、ピアノと、コーラスのepo以外は山下達郎による演奏で、ほとんどこのころから家内手工業的生産作業を行っていたことがわかる。つまり今に通じるものだ。この曲は30分でできたという珍しいものらしいが、三連のメロディが彼女が最も好むものらしいことから、こういうものができたのだとわかる。
僕の街へ
イメージとしては、かつて、ロスからイリノイの田舎までグレイハウンドバスで旅した時のものがあるという。ここで起用されたのが、林哲司。「ブラックボード先生」や「イチゴの誘惑」ほど派手ではないものの、しっとりと落ち着いた曲で、「象牙海岸」という曲のテイストに最も近いか。筆者としては大好きである。
雨に消えたさよなら
大貫妙子の作品。そうといわれなくては、感じないほど、竹内まりやにしっくりきていると思う。アルバムリリースの時点では、まだアナログレコードだったため、こちらが、A面のラスト。締めくくるナンバーなのであるが、いい小品である。
リンダ
もちろん、アン・ルイスに提供したもののセルフカバーである。後に、彼女のベストアルバムに収録されているくらいなので、山下達郎がすばらしいアレンジで、仕上げている。今では、ほとんど結婚式の定番ソングである。その彼女も、山下達郎と一緒になっているので、山下達郎としても、かなりの力が入った仕事をしていると思われる。
イチゴの誘惑
こちらも林哲司の曲であるが、シングルとなっている。そのためか松本隆が作詞で起用され、どちらかというと歌謡曲に近い線で、構成されているような気もする。バックでは、おなじみとなった、epoと大貫妙子がまりやとともにコーラス参加している。epoは、竹内まりやにコーラス起用されて、その後デビューしたという経緯を持つが、さらに大貫妙子も使ってしまうなんて、豪華なラインナップは、今では考えられないだろう。
Natalie
センチメンタル・シティ・ロマンスとの共同作業。実は、竹内まりやは、彼らとも親交があり、妹分のような関係である。センチのメンバーも、野口明彦という人がいて、シュガー・ベイブの初代ドラマーであるから、山下達郎と関係がないわけではない。英語の詞であるがやはり英語力を売りにしたいというものもあるんだろうが、セルフライナーによると、英語でドラマ仕立ての曲を書いてみたいというものがあったらしい。こちらが本音であろう。アレンジもシンプルで、こういう山下達郎抜きの竹内まりやも十分に成立するのだが、それがほとんど不可能であるのが残念なのである。
ウェイトレス
山下達郎との共同作業。曲の頭数の調整のために書かれた可能性があるような気もする。にしては、起用されるミュージシャンが贅沢なのだが。曲のイメージとしては、旅をしたらしいニューカレドニアの海辺があるらしいが。ファーストアルバムの山下達郎作品「夏の恋人」の続編風でもある。
Special Delivery〜特別航空便
曲中に「サンタが街にやってくる」が挿入されている。こちらも海外でのひらめきらしく、ニューヨークで一人暮らすことになったら、日本にいる恋人の元へ手紙を出すのにも、速達(Special Delivery)になるだろうというもの。
ポートレイト〜ローレンスパークの想い出
作曲者の安部恭弘とは大学のサークルで同窓であった。このローレンスパークとは、彼女が留学した先の地元の公園である。何でも、そのホームステイ先のご主人が亡くなり、曲じたいはそのときに作られていたらしい。

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