Here/Grapevine

01 想うということ(田中和将/亀井亨/Grapevine・根岸孝旨)
02 Reverb[Jan.3rd.Mix](田中和将/亀井亨/Grapevine・根岸孝旨)
03 ナポリを見て死ね(田中和将/田中和将/Grapevine・根岸孝旨)
04 空の向こうから(田中和将/西原誠/Grapevine・根岸孝旨)
05 ダイヤグラム(田中和将/田中和将/Grapevine・根岸孝旨)
06 Scare(田中和将/西原誠/Grapevine・根岸孝旨)
07 ポートレート(田中和将/亀井亨/Grapevine・根岸孝旨)
08 コーヒー付(田中和将/西原誠/Grapevine・根岸孝旨)
09 リトル・ガール・トリートメント(田中和将/西川弘剛/Grapevine・根岸孝旨)
10 羽根(田中和将/西川弘剛/Grapevine・根岸孝旨)
11 here(田中和将/亀井亨/Grapevine・根岸孝旨)
12 南行き(田中和将/亀井亨/Grapevine・根岸孝旨)
2000年にリリースされた、Grapevineの3枚目のアルバム。このバンドは、近頃珍しくなった骨太のロックを聴かせてくれる存在だ。93年に大阪で結成。グループ名は、Marvine Gayeの「I Heard It Through The Grapevine」から銘々。意味は、直訳では「葡萄の蔓」であるが、「他愛のないもの」というスラングがあるらしい。オリジナルメンバーは、田中和将(Vo/G)、西川弘剛(G/Cho)、西原誠(B/Cho)。他に、キーボードとドラムスがいたがメンバーチェンジにより、亀井亨(D/Cho)が加わり、現在のラインナップに。97年にデビュー。メンバー全員が曲を作るのが強みである。作詞は、ヴォーカルの田中和将がすべてを担当する。このアルバムでは、前作『Lifetime』に続きDr.Strange Loveの根岸孝旨が共同プロデュースをしていて、適度なポップス感を加えている。
さて、彼らを語る上で重要なのが、田中の言語感覚である。日本語をまるで英語のように発音して、ちょっと聴いただけでは、何をいっているのかわからないのだが、上手くアメリカンロックのようなノリを再現している。これには、数タイプあるのだが、これについては後述する。また、このアルバムでは、歌詞を普通に並べたものではなく、フレーズごとに区切ってベタで揃えて印刷してある。かつて、佐野元春が『Cafe Bohemia』で採った方法が踏襲されているが、彼らの場合は、あまり歌詞自体にとらわれないような意識をリスナーに持たせたかったのではないかと、推測する。調べてみてわかったことだが、ヴォーカル田中と他のメンバーは、年代的に一世代離れている。あとから加わった亀井がかろうじて田中とかぶっているのであるが、洋楽マニアのメンバーに、田中の新しい言語感覚が加わって、玄人も唸らせ若い世代にも存分にアピールするものがあるのではなかろうか。
2001年になって、リーダーでもある西原誠が腱鞘炎のために長期療養を余儀なくされたが、残ったメンバーは、西原を脱退させることなく、その間にサポートメンバーを入れてツアーなどに出る模様。(2003/04/20追記)1年間の休養後、西原は復帰することとなり、5枚目のアルバム『another sky』をリリースし、ツアーに出る直前、状況が思わしくなく、正式に脱退することとなった。リーダー不在の状況ではあるが、頑張っていただきたい。

PCCA-01423
2000/03/15発売
Produce:Grapevine/根岸孝旨

曲解説

想うということ
オープニングナンバーは、直球勝負だ。歌っている言葉は、相変わらずの英語もどきなのだが、フレーズにも、意味が込められ、上質のバラッドとなっている(タイプ1)。このように、Grapevineは、田中将和の言葉で曲調も変わってくるものである。この曲のように、シリアスな感じのものもでき、彼らの奥は深い。ひとつ間違ってしまうと、芸能・歌謡的に取り上げられそうではあるのだが、このあたりがそのあたりに出没している連中とは違う本格派であるということなのだろう。
Reverb[Jan.3rd.Mix}
こちらも、タイプ1のマイナー調の曲。しかし、バックの音は更に激しさを増している。サビの部分が何ともコンテンポラリー風というか、テレビに出てくるロックバンドのような感じではある。しかし、それだけでは終わらないのが、このバンドの奥深さだ。
ナポリを見て死ね
もっとも、意味のないフレーズが並ぶ曲。だいたい♪「餌付けは日に三度/すぐ壊れちゃうからねえ おまえら/安く見られてるよ…」というフレーズにどういう意味を感じるか。まったく意味がない(タイプ2)。しかし、これがとてつもないグループ感を生み出している。この曲は田中自身の手によるものだが、こうしたノリを再現するために、わざとそのような言葉を選んだというような気がしてならないのは、深読みだろうか。田中としても、会心の作かも知れない。
空の向こうから
Grapevineというバンドは、シリアスなだけではなく、この力の抜け具合がいいと思う。それでも、しっかりと独特のグルーブ感があって、聴くとああGrapevineだなと思えるのがいい。それにしても、作曲者はそれぞれ違うのに、こういう水準を保つのは、凄いことである。やはりバンドのクオリティが高いからなのだろう。
ダイヤグラム
ストリングスをフューチャーした、スローな曲。曲としてはタイプ1に属すると思えるが、途中のシャウト部分では、意図的に歌詞が伏せ字で表記されている。また、ダブルミーニングの歌詞もあって、なかなか考えられていると思う。伏せ字部分は特に嫌らしい言葉遣いではなくて、田中和将の叫びがやや遠くで感じられる。従ってききとりにくいものだが。
Scare
田中和将のフレーズを追っていくと、確かに感じるのが、ある程度の言葉尻あわせである。とはいえ、語尾に「〜ねえ」というものがつく語感は、彼独特のもので、ある種田中和将の発明品という気がしてならない。ここでは、アップテンポな曲にあわせて、シャウトするGrapevineがいる。髪振り乱してという感じ。大部分の歌詞は通して聴くと意味が残るが、いくつかのフレーズに意味のない箇所が存在する(タイプ3)。パーカッションで大石真理恵などがフィーチャーされている。
ポートレート
はっぴいえんどや松本隆ではないが、今度は「です・ます」調の曲。まるで本当にスケッチをしているような感じだ。曲は後半の盛り上がりで、展開を見せて、ラストには一部ビートルズ風のフレーズの流用(「Something」)もあるが、こんなものは奥田民生に比べれば何ともかわいいものである。キーボードがフューチャーされているが、これは、柴田俊文である。
コーヒー付
コーヒーをすする効果音から始まる。1'32"という短い曲の中にアルバム途中のブレイクという雰囲気もあるのかも知れないが。田中和将がファルセットを使って歌う。
リトル・ガール・トリートメント
こちらは、言葉の連続にやや無理があるようだが、半ば強引に持っていってしまうような曲だろうか(タイプ4)。骨太なベースラインにイカしたギターフレーズに、もうそんなことはなんでもない、ハイそうですかと思わず頷いてしまうような説得力もある。職業作詞家の手になるものでも、これ以下のひどいものもあるから、グルーブ感など合わせていくと、まったく問題ないと思う。
羽根
ひとつひとつのフレーズに意味があって、何となく続く言葉とも重なっていくのだが、通して聴くと何かがあるのかというと、それがあまり感じられない。やや中途半端な感じが残るのだが、これこそGrapevineの真骨頂なのかも知れない。アルバムに先行してシングルカットされた。
here
久々のタイプ1。アルバムタイトル曲である。デビューアルバムなどでは、田中和将の歌い方は、相当英語っぽく聞こえるようにこだわっていたのだが、さすがにこのようなシリアスなものとなると、そうでもなく、聴きやすい感じがする。タイトル曲の割には、やや盛り上がりに欠けるのは、ラストに向けての準備ととっていいのだろうか。
南行き
こちらも、ばかばかしいフレーズが並ぶ曲だ。もちろん、タイプ2。しかし、何となくいわんとするところはわかってくる。それにしても脳天気な曲で、今までのGrapevineというどちらかというとシリアスなバンドという概念をうち破った曲かも知れない。バックコーラスで加わっている、Hicksvilleの真城めぐみとサックスの山本拓夫がいい味を出していて、何ともアメリカンな感じが漂っている。Grapevineは、これによって新境地を開いたかも知れない。なお、「SouthBound」と英訳したものがその後のツアータイトルとなっている。

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