金字塔/中村一義

金字塔

01 始まりとは(中村一義/中村一義/中村一義)
02 犬と猫(中村一義/中村一義/中村一義)
03 街の灯(中村一義/中村一義/中村一義)
04 天才とは(中村一義/中村一義/中村一義)
05 瞬間で(中村一義/中村一義/中村一義)
06 魔法を信じ続けるかい?(中村一義/中村一義/中村一義)
07 どこにいる(中村一義)
08 ここにいる(中村一義/中村一義/中村一義)
09 まる・さんかく・しかく(山田とも子/小山田暁/中村一義)
10 天才たち(中村一義/中村一義)
11 いっせーのせっ!(中村一義/中村一義/中村一義)
12 謎(中村一義/中村一義/中村一義)
13 いつか(中村一義/中村一義/中村一義・井上鑑)
14 永遠なるもの(中村一義/中村一義/中村一義・井上鑑)
15 犬と猫再び(中村一義/中村一義/中村一義)

PHCL-5055
1997/0618発売
Produce:中村一義

中村一義1997年のデビューアルバムである。中村一義という男、アマチュアながらにライヴは一切行わず、自宅ででもテープ作りに励んで、そのままメジャーデビューしたという変わった経歴を持つ。そのスタンスは、デビュー後も変わらず、ライヴは一切なく、スタジオに籠もってほとんどひとりで作品を作り上げるというマイペースぶりである。
その中村一義、これまで唯一のライヴ出演が松本隆の作詞活動30周年記念ライヴ、「風街ミーティング」での競演であるが、そこで競演した高野寛とは、このアルバム中での数少ないサポートミュージシャン。その他のクレジットを見ると、鈴木茂などはっぴいえんど関連の人も認められるが、基本的に中村一義がドラム、ベース、ギター、パーカッションを担当という、超自作自演ぶり。その他のサポートは、鍵盤系とオーケストレーションのみといってよい。
また、それまでまったく無名にも関わらず、中村一義はプロデュースも担当し、全てのアレンジも行い、レコーディングエンジニアのひとりにも名を連ねているというから、驚かされる。こんな新人が今までいただろうか。こう書くと、百戦錬磨の手練れのようにも思えてしまうが、素顔の中村一義は、さわやかな風貌の20台前半なのである。一言でいうと、おたくがポップスを変態的に極めた成功例ともいえよう。
さて、この後の中村一義は、同じレーベルからアルバムを1枚出した後、所属をインディーズレーベルへと鞍替えしてしまう。それが何を意図するのかは、今後の彼の活動を見守るしかないのだが、ライヴ出演を機にTVCMなどにも出演したほどだから、彼の中で何かが変わりつつあるのかも知れない。期待しよう。(2003/04/20追記)その後、東芝EMIに移籍。しかし、このアルバムを未だに越えられない感じはする。

曲解説

始まりとは
このアルバムのイントロのようなもの。アコギと若干のSE、中村一義の語りというか、ポエトリーリーディングのようなものが全て。しかし、この中にアルバムタイトルの金字塔という言葉も出てきて、筆者はこの中に彼の意図するものが凝縮されているのではないかと思うのである。
犬と猫
キリンジのところでも書いたが、ほとんどサウンド重視というか、ここの言葉はほとんど意味がないように思える。キリンジの場合は、使われる単語を読みとっていくと、いくばくかの情景も感じさせるものがあったが、ここではそれが一切なく、ぱっと聴くと、日本語の歌曲ではないようでもある。そこが狙いなのだろうか。とにかく、それでもシングル化されている。
街の灯
これが、中村一義のバラッドなのだろうか。基本は、中村一義のギター弾き語りなのだろうが、ファルセットによる、ひとり多重録音が使用されていて、確かに100%のパフォーマンスをライヴで期待するのは、無理がありそうである。
天才とは
ギターで、高野寛が参加している。高野寛とは、その後のアルバムなどでも競演しているほどで、この人脈関係で、松本隆の「風街ミーティング」に参加したのではなかろうか。こちらは、無理に言葉を当てはめたような箇所はないものの、かなりの変調があるので、あまり言葉のイメージは残らないのではなかろうか。そこかしこに散りばめられるフレーズは、ビートルズフレイバーに溢れている。やはり、中村一義は若き天才なのかも知れない。
瞬間で
同じリズムで、次の「魔法を信じ続けるかい?」へ続く。当然、歌詞カードには何も載っていない。
魔法を信じ続けるかい?
こちらにも、高野寛が参加している。比較的ポップス感覚溢れる作品で、こちらもビートルズの影響が感じられる。中村一義は、中学生の時に、ビートルズのボックスセットを購入してしまい、そこからビートルズへと染まっていったようである。ただ、それが自分流にかなりデフォルメして、消化されてはいるのだが。
どこにいる
部屋から飛び出して、今いる地点を小型のテープレコーダーで、録音していったような作品。音楽性は全くなく、それらが繋がっているのだが、時折聞こえてくる、ライターで火をつけて、タバコを吸うような音がアルバムタイトルの「金字塔」を表しているのではないだろうか。ジャケットのあちこちにある、灰皿の上にタバコの吸い殻をまっすぐ立てていったものが彼にとっての、なんでもないことの積み重ねのように、筆者は感じてしまう。すなわちそれが、金字塔なのだと。
ここにいる
ピアノをフィーチャーした、中村らしくない曲。こちらは、朝本浩文である。この二人、合いそうにないが、何気なく参加していたりする。
まる・さんかく・しかく
唯一のカバー曲は、子供の歌。オリジナルヴァージョンは、「パタパタママ」ののこいのこが歌っているが、こちらはオリジナルにはかなわないものの、カルトな雰囲気で迫っている。
天才たち
リズムボックスで、繰り返される、ノイズのようなフレーズ。その最後に次のタイトル、「いっせーのせっ!」と、誰かの声でシャウトされるのである(ただし、音はかなり絞られている)。
いっせーのせっ!
こちらには、鈴木茂がもちろんギターで参加。とはいえ、バリバリのギターソロがあるかと思いそうだが、そうではなく、軽く弾いている程度なのではなかろうか。かなり贅沢な使い方に、中村のサウンドプロデュースの方向性が見えないだろうか。中村の曲の中でも、ポップス性十分で、歌っている内容もかなり意味のあるものである。筆者は気に入った曲のひとつ。
こちらは、中村一義の解釈したブルースか。細海魚と重実徹がダブルキーボードで参加しているのだが、これまた、目立つ箇所が少ない。メッセージ性も十分なのだが、例の中村流アレンジと歌い方に、隠されてしまっていると思うのは、筆者だけであろうか。それにしても、デビュー作であるから、ここまで自由にできたともいえそうな作品だ。
いつか
こちらははじめてストリングスを使用した作品。そのアレンジは、やはり第一人者の井上鑑である。まあ、ストリングスといっても、基本は中村一義のひとり演奏であって、後半にわずかに被さるくらいなのだが。ギターで、元甲斐バンドの大森信和が参加している。
永遠なるもの
冒頭部分のおそらく地声と思えるものは、ビートルズの「You Know My Name(Look Up The Number)」のように思えて仕方がない。これだけでも、中村がかなりのビートルズフリークである、といえそうだ。ともあれ、アイデアはここから頂いたのだと、筆者は思う。こちらにも、高野寛が参加。後半は、「All You Need Is Love」のように笑い声などが挿入されていく。ストリングスアレンジは、井上鑑。
犬と猫再び
「犬と猫」のフレーズを繰り返し、ラストで「僕の人生はバラ色に変わった」と本人以外に言わしめている。ここまでならば、通常のアルバムなのだが、この後にシークレットトラックが、2曲隠されている。しかも、7分後などであるから、気の短い人は、そのままストップボタンを押してしまうのではなかろうか。こうした仕掛けだけでも、中村一義がかなりマニアックであるといえよう。

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